悠田ドラゴのAll-Out ATTACK!!

悠田ドラゴのAll-Out ATTACK!!

カテゴリーをご覧になれば、どんなブログかだいたい察しがつくかと思います。

BENNETT ベネット(原作『コマンドー』)

序章:船出


とある港。そこに停泊していている一隻の漁船に向かって歩いている男がいた。
名をベネットという。
彼は船に乗り込み、水平線を眺めながら、昔を思い出していた。血なまぐさいあの日々を。
彼はジョン・メイトリクス大佐率いるコマンドー部隊の一員だった。
そこでは戦いと訓練に明け暮れ、暴力と死にまみれた日々を送っていた。
翻って、今の俺はどうだろう。ベネットは考えた。


メイトリクスに部隊を追放されてからというものの、俺はすっかり腐ってしまった。漁師をやって糊口を凌ぐ毎日は、あの日々に比べてなんて乾いているのだろう。
ベネットは確信していた。殺し合いのない世界など、自分にとって虚構に過ぎない。メイトリクスと過ごした戦場こそ、俺のいるべき場所なのだと。


こんなクソみたいな日々に、決着をつけねばならない。
そう、いまこの時をもって、俺は戦場に戻るのだ。メイトリクスのもとへと。
ベネットは、船を海に向かって発進させた。その姿を港から見守る一人の黒人がいた。その男はおもむろに何かの装置を取り出すと、ゆっくりとスイッチを押した。
ベネットの船は破裂し、たちまち海の藻くずと化した。

 

BENNETT ベネット


第1章:トリック

その数週間前、ベネットのもとへある男達がやってきた。彼らの雇い主を聞いてベネットは驚いた。
アリアス将軍。南米にあるバル・ベルデ共和国をかつて支配していた独裁者だ。メイトリクスによってアリアスの政権は転覆し、今はベラスケス大統領が君臨している。
アリアスの手下は、高級車を難なく買えるくらいの現金を差し出し、ある計画について説明し出した。アリアスは、メイトリクスを使ってベラスケスを殺し、再び支配者の座に返り咲こうとしていた。その計画には、ベネットの協力が不可欠だったのである。
やつの計画の第一段階は、メイトリクスの居場所を突き止めることだ。というのも、メイトリクスの部隊は解散した後、それぞれ新しい身分と職業を与えられ、それまでとは真逆の人生を生きていた。彼らを八つ裂きにしたいほど恨んでいるかつての敵たちから、報復を受けないための手段だった。


ベネットは何人かの情報は握っていたけれど、肝心のメイトリクスの住処などつゆも知らない。
そこで、アリアスとベネットは、メイトリクスを最強の軍人へと育てあげたカービー将軍に、目的の場所へ案内してもらうことにした。かつてのコマンドー部隊の面々を殺害し、メイトリクスの身にも危険が迫っていると悟らせることによって…。


グリーンベレーのクックが、最初に2人を葬った。ひとりはゴミ収集車でおびき寄せて撃ち殺し、もうひとりはキャディラックで轢き殺した。元特殊部隊の人間というのが疑わしいほど、あっけない死に様であった。
さて、メイトリクスのもとへたどり着くには、もうひとり死ななければならない人間がいる。
ベネットだ。


もちろん、ベネットはこの計画のために命を差し出すつもりは毛頭ないし、アリアスとしてもメイトリクスへの怨念をたぎらせる貴重な殺人マシンを失うわけにはいかなかった。
だから、彼らは”トリック”を使うことにした。
ベネットの乗った漁船が爆破されたという知らせが軍にも届き、いよいよカービー将軍が動き出した。かつての特殊部隊にいた男達が、次々と殺されている。彼らの情報が、何者かによって漏れ出ている。次に狙われるのは…メイトリクスだ。
カービーの乗ったヘリは、アリアスの思惑通り、山あいにある一軒の家へと向かった。そこでは、かつて戦場で鬼のような戦いぶりを見せていた軍人が、一人娘と穏やかな生活を送っていた。


ついにアリアスの毒牙は、メイトリクスを捕捉したのである。
カービーがメイトリクスのもとを立ち去るタイミングを見計らって、アリアスの部隊が奇襲をかけた。そして娘を誘拐し、メイトリクスをおびき出すことに成功する。
カーチェイスの末、メイトリクスの車は転倒し、脱出してきた彼を数人がかりで殴り倒した。
地べたに仰向けになったメイトリクスは、彼をのぞきこむ顔を見て仰天した。
死んだはずのベネットが、不適な笑みを浮かべて立っていたからだ。
「ベネット…お前は…」
「死んだと?」
狐につままれたようなメイトリクスの表情をながめながら、ベネットは一晩寝ずに考えて思いついた、取って置きのフレーズを放った。
「残念だったな、トリックだよ」
ベネットの銃から放たれた矢が、メイトリクスの意識を即座に奪った。


2人はコマンドー部隊の上司と部下だったけれど、トレーニング中はその関係を超え、ただのホモ・サピエンス同士として激しくぶつかり合った。それは、男と男のピュアなつき合いだった。
汗にまみれたあの日々を、バックミラーに映るメイトリクスの寝顔をながめながらベネットは思い返していた。
あれほど血の滾るような日々は、他になかった。
だが、いつの間にかメイトリクスは俺を憎むようになった。
俺が殺し過ぎたからだ。
俺にしてみれば、やつの教えを忠実に守り、ひたすら実践しただけだったのだが…。
まあ、しかし、たしかに殺しは楽しかった。
メイトリクスとの訓練と同等か、あるいはそれ以上に俺を魅了した。
だから、メイトリクスは俺を部隊から追放した。
それ以来、俺はまるで抜け殻のような日々を送ることになったんだ。


第2章:I'll be back, Bennett

どこか、見知らぬ倉庫のような場所でメイトリクスは目を覚ました。
辺りを見渡すと、ベネットを含んだ数人の男達が、彼を縛り付けた台を囲んでいる。
「麻酔弾だよ」
ベネットがわかりやすく説明してくれた。
「私を憶えているか、大佐」
続いて口を開いた男をメイトリクスはにらみつけた。アリアス将軍だった。
「忘れるものか、このゲス野郎」
アリアスはメイトリクスの悪態を気にすることなく、自身の壮大な計画について語り始めた。
メイトリクスをバル・ベルデへ単身乗り込ませ、ベラスケス大統領を暗殺させる。もし、勝手な行動を取ったならば、娘をバラバラにして送り届ける。
シンプル。実にシンプルでわかりやすい計画だった。


作戦は次の第2段階に移った。
ベネットの仕事は、メイトリクスとその見張り役であるサリー、エンリケスの3人を車で空港に送ることだ。
別れ際、ベネットはメイトリクスに忠告した。
「サリーとエンリケス、どちらかと連絡が取れなくなったら、娘はあの世行きだ」
メイトリクスは、戦場でことあるごとに使っていた、お馴染みの捨て台詞を返した。
「I'll be back, Bennett」
うんざりするほど聞かされたこのフレーズも、今や心地よく感じられる。ベネットはいい気分だった。
「待っているよ、ジョン」


アリアスのもとへ戻ったベネットは、サリーからメイトリクスとエンリケスがバル・ベルデ行きの飛行機に搭乗した知らせを受けると、ジェニーを連れてアリアス軍団のアジトがある離島に向かった。
そこで、エンリケスからバル・ベルデに到着した報を待つことになる。
しかし、ベネットはそんな報が来ないであろうことは、ずっと前から知っていた。
メイトリクスは必ず命令に背き、娘を取り戻しにくる。
それも、バル・ベルデに到着する前にだ。大統領を暗殺したとこで、自分も娘も命がないことをやつはよくわかっている。
だから、飛行機が到着するまでの11時間の間に、やつは必ずこの島に現れる。
その時は、もはやアリアスの計画などどうでも良い。娘をエサに、メイトリクスをおびき出し、俺様ひとりでやつをなぶり殺す…。
それこそが、ベネットの本当の狙いだった。
ここから、遂にミッション<BENNETT ベネット>が始動したのである…。


第3章:カカシですな

といっても、メイトリクスが島に来るまでの間、特にやることはない。
そのため、ベネットはアリアスの護衛をするふりをしつつ、暇なのでナイフを矯めつ眇めつしながら、「ジョンのどこを切り刻んでやろうか」などと妄想を膨らませていた。
アリアスは常に能面のような表情で全く感情が読み取れないが、ナイフをながめてニヤニヤするこの男のことを内心気味悪がっていた。
そんな感じで時間を持て余しつつも、やっぱりやることがなくなってきたので、ベネットは「あなたの兵隊はまるでカカシですな。俺やメイトリクスなら、瞬きする間に殺せますよ。アハハ」などとアリアスをおちょくって遊んだりもした。
また、メイトリクスとの一騎打ちに備えて、美味しい料理をたらふく食べたりもした。


さて、そうこうしているうちに、アリアスの電話が鳴った。
バル・ベルデの空港で、メイトリクスの到着を待っていた部下からの報告だった。
「やつは乗っていません!」
怒り心頭に発したアリアスの手がプルプルと震える。
「娘を殺せ」
ベネットは笑みだけ返し、すぐさまジェニーを監禁している部屋へと向かった。
すると、あたりで爆発音が轟いた。
「やっぱりやって来たか。流石だ、メイトリクス」
嬉しさのあまり、ベネットは思わず独りごちた。
ルンルン気分で監禁部屋に入ると、中はもぬけの殻だった。
まさか…!?
あろうことか、ジェニーはベニヤ板でできた壁をはがして、外へ脱出していた。
「あの小娘がっ!」
メイトリクスよりも先に小娘を見つけなければ。
本来であれば、ジェニーの追跡は手下に任せて、アリアスの護衛に回るべきなのだが、この男の生死など、もはやベネットは歯牙にもかけていなかった。
壁を渾身の体当たりでぶち破ると、ちょうど地下へと続く階段をジェニーが駆け降りていくところが見えた。
辺りでは爆音と銃声がひっきりなしに続いている。
メイトリクスがアリアス軍団を皆殺しにするのも時間の問題だろう。
その前に、小娘をひっ捕えなければ。
ベネットは無我夢中で駆け出した。


第4章:地獄

地上で起きている爆発の衝撃で、張り巡らせれたパイプが軋んでいる。
ベネットは薄暗い地下を進んでいた。まるで小動物を血眼で探しているハイエナのように。
どこに隠れているんだ、小娘。とっとと出てこい。
ジェニーは物陰に息を潜めていたが、父親が近くに来ているのを感じ、あらん限りの声で叫んだ。
「パパー!」
その声は、メイトリクスに届いた。
「ジェニー、どこだ!?」
父親は一目散に、娘の声がこだまする地下へと降りていく。
「ジェニー!」
親子はついに、互いの声がはっきり聞こえる距離まで近づいた。
しかし、ジェニーの声が呼び寄せているのはメイトリクスだけではなかった。
物陰から飛び出したジェニーを、ベネットの手がつかんだ。
「キャー!」
「わるいな、パパでなくて」
これで俺の勝ちだ…。
ベネットは切り札を取り戻した。
そして遂に、メイトリクスが目の前に現れた。
ベネットはすかさず、鉛玉を彼の腕にぶち込んだ。
たまらずメイトリクスは、物陰に身を隠す。
「ジョン、顔を見せろよ。昔のよしみだ、一発で仕留めてやるぜ」
無論、ベネットにそのつもりはない。四肢を撃ちぬいて動きを封じてから、ゆっくりナイフでいたぶってやるつもりだった。娘には、その光景を特等席でおがませてやる。
ところが、メイトリクスの挑発がベネットの何かを揺り動かしつつあった。
「来いよベネット。銃なんか捨てて、かかってこい」
そうだ、俺が望んでいたのは一方的な拷問なんかじゃない。体と体のぶつかり合いだ。
ベネットは覚醒した。男ベネットは、正々堂々勝負する覚悟を決めたのだ。
「ガキにはもう用はねえ! ハジキも必要ねえ! てめえなんか怖かねえ!! 野郎お、ぶっ殺してやらぁぁぁ!!!」
こうして、史上最大の決闘が始まった。


組んず解れつする鋼の筋肉に包まれた肉体と、チョッキに身を包んだ狂気の肉体。
片腕を負傷したメイトリクスはやや劣勢で、ベネットの攻撃が彼の命を削っていく。
「いい気分だぜ。昔を思いださあ! これから死ぬ気分はどうだ、大佐!」
ベネットの意識は、完全にコマンドー時代に戻っていた。
彼の人生で最も輝いていたあの時代に。
メイトリクスと互いの体を激しく交じらせていた、あの素晴らしいときに。
ところが、「Bullshit!」と叫び自身を奮い立たせたメイトリクスの鉄拳を喰らい、ベネットは電熱線に背中から突っ込んだ。
「ギイイヤアアア!!!」
とてつもない電流がベネットの体を駆け巡った。万事休すか…。
だが、このときベネットは電流を自らのエネルギーへと変える秘技“ベネット・チャージ”を使い、まさかの復活。
雷のごときパワーで反撃した。
もう十分楽しんだ。そろそろケリをつけるときだ…!
「ハジキはいらねえ!」と勇んでいたベネットはどこへやら、結局銃で仕留めることにした。
「眉間なんか狙ってやるものか! 貴様のタマを撃ちぬいてやる!」
その刹那、メイトリクスは渾身の力で壁に張り巡らされたパイプを引き抜くと、そのままベネットの胴体めがけて投げ飛ばした。
ベネットは何が起きたのかわからなかった。
気がつくと、胸部を図太い棒が貫いていた。
そのパイプはベネットの背後にあったボイラーをも貫通し、パイプの先から蒸気が吹き出している。まるで、彼の精魂が流れ出ていくかのように。


蒸気の中にうっすらと映るメイトリクスの顔が、死にゆくベネットを見つめいている。
ほとんど感覚がなくなり何を言っているのかよくわからなかったが、死に際、ベネットはメイトリクスがこう言ったように感じた。
「地獄で待ってろ、ベネット」
そうだ、地獄でまた会おう、ジョン。その時は今度こそ、お前を片付けまさあ。


THE END