悠田ドラゴのAll-Out ATTACK!!

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カテゴリーをご覧になれば、どんなブログかだいたい察しがつくかと思います。

怪獣王の新時代──2010年代のゴジラ快進撃①

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2004年に『ゴジラ FINAL WARS』が公開され、シリーズに一旦の終止符が打たれた頃、十数年の時を経てゴジラが国際的なマーケットで戦える強力なコンテンツと化すことを予想できた人は、はてして何人いただろう。ハリウッドによってシリーズ化され、その最新作を世界中のファンが待ちわびている状況を、どれだけの人が想像できただろう。

 

少なくとも私は2004年の時点で、かなり真剣にゴジラは終ったのだと思っていた。シリーズの集大成を謳い、歴代の怪獣を惜しむことなく投入した『ゴジラ FINAL WARS』が興行面で惨敗を喫したとき、そのブランドとしての価値が自分の思っている以上に弱っていることを痛感した。

 

メカゴジラの逆襲』から10年の沈黙を経て1984年の『ゴジラ』が作られたように、ともすれば新たな国産ゴジラを目にすることもあるだろう。しかし、その帰還を喜ぶのは一部の特撮ファンだけになるのではないかという、ある種ネガティブな見方しかできなかった。

 

ところが、いまこの状況はどうか。

 

2014年にハリウッドでゴジラがリブートされ、その後キングギドラモスラといった東宝のスター怪獣から米産モンスターの頂に君臨するキングコングまでを取り込んだ巨大シリーズへと発展。国内に目を向ければ、2016年に国産ゴジラが復活し、社会現象と言って差し支えない興行的成功を収め、それからアニメというフィールドで意欲的な作品が展開されていった。

 

これを快進撃と言わずして何と言おう。ゴジラは間違いなく、かつてないほどのブランド力を手にし、黄金期にあるのだ。

 

この状況に至る2010年代にスポットを当て、怪獣王の歩みを振り返ってみたい。


GODZILLA ゴジラ』#1

 

ゴジラ映画が勝ち取った今日の国際的な成功は、2014年に公開されたレジェンダリー・ピクチャーズ製作の『ゴジラ』が切り開いた。その始まりは、2003年にまで遡る。

 

坂野義光怪作『ゴジラ対ヘドラ』の監督と知られる映画人である。彼は『ゴジラ FINAL WARS』によってシリーズが終了するよりも以前、1998年のハリウッド版『ゴジラ』を作ったトライスターから海外におけるゴジラの製作権利が東宝に戻ってきた頃、大型映像システムでの上映を前提としたゴジラの映像作品を企画していた。「ゴジラ対ヘドラ アット ザ マックス」なるタイトルがつけられたその内容は、変形を繰り返して世界を脅威に陥れるヘドラ(デスラ)と、それを食い止めるために現れたゴジラの死闘を描くもので、人間ドラマのない40分ほどの作品を構想していた。監督・脚本は坂野が担当し、海外から出資を募りつつも、日本のスタッフで撮影をするつもりだったという。

 

それから坂野は、後に2014年の『GODZILLA ゴジラ』で彼とともにエクゼグティブ・プロデューサーに名を連ねることになる奥平謙二の助けを借り、企画実現のための資金集めに奔走する。その過程で企画は3D作品を前提とするようになり、アトラクション映像「ターミネーター2:3D」などの仕事で知られるプロデューサーのブライアン・ロジャースといった強力なスタッフがプロジェクトに参加。さらに、制作会社・出資会社としてカーナー・オプチカルが東宝と交渉を開始し、長編としての実現も現実味を帯びてくる。しかし、結局必要な資金は手に入らず、坂野たちの試みは座礁してしまったかに思えた。

 

ところが、その後レジェンダリー・ピクチャーズの登場によって事態は好転。同社は当時、『ダークナイト』『300』『ウォッチメン』といったアメコミ映画の世界的ヒットで急成長を遂げていた。ブライアンは企画が大型映像作品であった頃から同社にプレゼンをしていたが、長編を前提としてレジェンダリーと東宝の交渉がスタート。ゴジラを始めとするモンスター映画を見て育った純正怪獣オタクである同社のCEOトーマス・タルの熱意も追い風となり──当初の坂野の構想とは違う形ではあるが──遂に新生ゴジラの製作がスタートしたのだった。

 

ここまでも坂野・奥平ら当事者たちにとっては相当険しい道であったろうが、製作のバトンを引き継いだレジェンダリーのスタッフらにとって、新しい怪獣王の形を創造するという作業がさらなる困難を伴うものであったのは想像に難くない。既にキャラクター像が確立しているモンスター・アイコンを、いまの時代にどのような形で観客に提示すべきなのか。あまりにオリジナルから逸脱したものを作れば、1998年のローランド・エメリッヒ版『ゴジラ』のようにファンから大いに叩かれるのは火を見るよりも明らかだ。

 

※余談だが、個人的にはエメリッヒ版『ゴジラ』に対して擁護的な立場を取っている。

yuta-drago.hatenablog.com

 

オリジナルのゴジラをリスペクトし、その本質や見せ方を理解していながら、全く新しい世界観を構築できる能力を備えたフィルムメーカー。トーマスやブライアンら製作陣が求めていたのは、そんな監督であっただろう。そこで抜擢されたのが、ギャレス・エドワーズだった。

 

全財産と人生をかけ、50万ドルで完成させた初監督作『モンスターズ/地球外生命体』でその才能を満天下に知らしめた、新進気鋭の英国人映像作家。南米でゲリラ撮影を敢行し、自宅でひとりコツコツとVFXの作業をこなし、ギャレスが持てる情熱と気合いをすべて注ぎ込んだ同作を観て、タルは「彼にもっと資金と大きなカンバスがあったら、とんでもない“絵”を描けるんじゃないか」と思ったという。

 

当時、ギャレスは30代半ばという若さ。しかも監督作は『モンスターズ/地球外生命体』1作のみという新人であった彼に、1.5億ドル以上もの予算をつぎ込んだ超大作を任さたレジェンダリーの胆力と慧眼には敬服せざるを得ない。そして実際、ギャレスはタルたちが求めた見たことのないゴジラの映像表現を見事提示してみせたのである。

 

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yuta-drago.hatenablog.com

 

<参考文献>
GODZILLA ゴジラ』劇場パンフレット
ゴジラを飛ばした男 85歳の映像クリエイター 坂野義光』(フィールドワイ刊)
『新世紀特撮映画読本』(洋泉社刊)
映画秘宝2018年12月号』『同 2019年1月号』(洋泉社刊)