悠田ドラゴのAll-Out ATTACK!!

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怪獣王の新時代──2010年代のゴジラ快進撃③

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国産ゴジラの再創造

2021年4月3日、庵野秀明が脚本・監督を務める『シン・仮面ライダー』が、2023年の公開を目指して製作されることが発表された。2016年の『シン・ゴジラ』(脚本・編集・総監督)、2021年公開予定の『シン・ウルトラマン』(企画・脚本)に続いて、またしても日本特撮の顔たるキャラクターの再構築・再創造が彼に委ねられた。

 

この文章を書いている2021年4月上旬の時点で完成・公開済みなのは『シン・ゴジラ』だけだが、いずれの作品でも、庵野がやろうとしていることは一貫しているようだ。それぞれのオリジナルに込められた精神やキャラクターの本質に立ち帰り、今だからできる映像とストーリーテリングで描き直す。陳腐な言い方をすれば“原点回帰”である。

 

ただ、『シン・ゴジラ』という作品を説明するには、“原点回帰”という表現だけではあまりにも不十分だろう。というのも本作は、庵野のもとに日本最高峰のクリエイター陣──樋口真嗣尾上克郎三池敏夫前田真宏竹谷隆之佐藤敦紀らが結集し、心血を注いで新たなゴジラを作り出した結果、単なるオリジナルの再現にとどまらず、特撮映画として未知の領域に踏み込んでいるからだ。半世紀以上にわたって、絶対的な起点であり、不可侵な存在であり続けた1954年の『ゴジラ』の呪縛から解き放たれた『シン・ゴジラ』は、シリーズにおける特異点となった。
※『ゴジラ×メガギラス G消滅作戦』や『ゴジラ FINAL WARS』で意欲的な設定が取り込まれているが、それでも初代を始点とした世界観であることは否めない。


本作に製作としてクレジットされている東宝の市川南がインタビューで語ったことによれば、同社ではレジェンダリーの『GODZILLA ゴジラ』が発表された頃から、もう一度日本のゴジラをやったらどうか、という話が出始めたという。そして2013年、スタジオジブリ鈴木敏夫を介して市川は庵野と会談。これが契機となり、庵野が構想する新しいゴジラの企画がスタートした。

news.yahoo.co.jp

 

彼が描こうとしたのは、完全生物である恐るべき怪獣の進撃によって、崩壊する日本の姿だった。その劇中におけるゴジラは、あまりに歪でユニークだ。

 

2016年初頭、公式な発表を前に『シン・ゴジラ』の造形をとらえた写真がネットに出回っている。赤くただれたような表皮、虚ろな目、不揃いの牙。見慣れた怪獣王の姿とかけ離れたあまりのギャップに、ファンは動揺した。そして同年7月に本作が公開されると、我々は更にショッキングな映像を目にすることになる。劇場のスクリーンに映し出されたのは、ゴジラの進化。それもオタマジャクシのような第1形態から徐々に成体へと変化し、最終的に人形の第5形態に至るという劇的な変態だった。

 

誰も見たことのない恐ろしく巨大で人智を超えた存在が、(劇中でも現実の世界でも)初めて人類の目の前に現れた衝撃。その点こそ、初代『ゴジラ』の特権であり、後続の作品がどうしても超えられない壁となった。しかし『シン・ゴジラ』は、ただ単に1954年のゴジラを物語から排除しただけでなく、想像だにしなかったビジュアルと設定でもって、初代の衝撃に勝るとも劣らないインパクトを現代に与えることに成功したと言える。

 

また『シン・ゴジラ』は、遂に着ぐるみを脱ぎ捨て、CGアニメーションによりゴジラを描いたという点でもエポックメイキングな一作だった。前回紹介した『新世紀特撮映画読本』掲載の切通理作氏のコラムでは、 尾上准監督・特技統括のこんな言葉が紹介されている。

 

「昔は空をホリゾントに描いて、ミニチュア飾って、ゴジラが歩いてくるのを撮るのが<特撮>だったんだけど、今はそれで一般のお客様が納得する映像を撮るのは難しい」
「マニアックな自己洗脳を自ら解いていかないと先に行けないっていうことに気付いた瞬間があった」

 

かつての慣習や手法に縛られていると、先に進む事ができなくなる。たしかに、例えば樋口監督がこだわったという長い尻尾が熱線を発射しながら縦横無尽に動き回るど派手なアクションを、従来の操演で演出することは難しかっただろう。また第2形態のクネクネとしたのたうち回るような動作も、CGだからこそ再現できたアクションと言えそうだ。『シン・ゴジラ』は慣習や王道の手法に固執することなく、新しい特撮の形を模索したのである。

 

これは決して、これまで培われてきた着ぐるみやミニチュアを駆使した特撮を否定するものではない。事実、CGでゴジラを描くにあたり、特に庵野がこだわっていたのはゴムでできた着ぐるみの質感の再現だった。本来CGで生き物を描く際、アニメーター達は筋肉や間接の動きなどを詳細にシミュレーションし、リアルな表現を突き詰めようとする。しかし、庵野たちが求めたのは生物学的に正しいゴジラではなく、特撮的な視点から見た正しいゴジラだった。

 

彼はCGクリエイターたちに「ゴジラを生物と思わないでほしい」と伝えたという。あまりに理にかなった動きや身体の構造をしているゴジラは、少なくとも庵野が求めるゴジラではなかったし、恐らく多くのファンにとっても望んだ怪獣王の姿ではなかっただろう。

 

また、本作の特撮がひたすらCGに頼っているかというと全くそうではなく、優れた美術スタッフによる精巧なミニチュアを使ったシーンも随所で光る。例えばゴジラ第2形態の進行によって崩れる家屋や第4形態が踏み崩す擁壁などは、瓦といった細かなパーツに至るまで職人の手で丁寧に構築されたものであり、これらの画が持つ迫力は彼らの高い技術力の賜物である。

 

こうした伝統と革新の技術を適材適所に配置することで、『シン・ゴジラ』は日本特撮の新たな可能性を提示した。

 

yuta-drago.hatenablog.com

 

<参考文献>
シン・ゴジラ』劇場パンフレット
『別冊映画秘宝 特撮秘宝vol.4』(洋泉社刊)