悠田ドラゴのAll-Out ATTACK!!

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怪獣王の新時代──2010年代のゴジラ快進撃④

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シン・ゴジラ』#2

3月22日、NHKの番組『プロフェッショナル 仕事の流儀』で「庵野秀明スペシャル」が放送された。自身の命よりも作品を優先する仕事観、無尽蔵なこだわり、妥協を許さないストイックさ。その内容は多くの視聴者に衝撃を与え、SNSでも大きな話題となっていた。

 

番組は『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の製作背景に迫ったものだったが、ここで庵野が見せた作品に対する向き合い方は、『シン・ゴジラ』においても同じであっただろう。レイアウトの凝り方が尋常ではなく、「画面全体を1ピクセル上げてくれ」のような細かな要求は珍しくなかった──CGを手掛けた白組プロデューサーの井上浩正が『別冊映画秘宝 特撮秘宝vol.4』で語っているこのエピソードなどがその証左だ。

 

こういった度が過ぎる庵野のこだわりが、時に反感や混乱を現場に引き起こしていたことが、『ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ』といったメイキング本等に記録されている。大げさに言えば、彼はゴジラが日本を蹂躙するがごとく、現場の秩序や平穏を乱していった。スタッフにとって、庵野は怪獣であり、理解し難い存在だった。

 

それは本人も自覚的であり、作業がルーティーンになることを防ぎ、それぞれのクリエイティビティを最大限に引き出すため、あえて嫌われ役を演じた面もあったようだ。そして、常に緊張感が漂う現場において庵野とスタッフ達の間を何とかつなぎとめていたのが、樋口だった。彼が緩衝剤となり、『シン・ゴジラ』の現場はギリギリのところで崩壊するのを免れていた。それもまた、何かが掛け違えば一瞬で崩れ落ちてしまいそうな、絶妙なバランスで成り立っている同作のゴジラの危うさと重なるところである。

 

スタッフ、キャストにとって『シン・ゴジラ』を作るというのは、終わりの見えない庵野の創造の旅に、必至で食らいついていく日々だったに違いない。そう考えると、彼らにとって本作の完成というのは、庵野という大怪獣に勝利した瞬間だったのかもしれない。

 

公開された映画は日本において、2014年の『GODZILLA ゴジラ』を凌ぐ驚異的な熱狂を巻き起こした。観客動員数は550万人を突破。これはシリーズ歴代5位の大記録である。

 

邦画シーンのど真ん中に、我らが怪獣王が鎮座した。こんな光景が見られるとは、少なくとも私は全く予想していなかった。これほどまで日本中がゴジラという存在に注目したことは、久しくなかったのだ。

 

その後、レジェンダリーのゴジラがシリーズ化したこともあってか、実写の国産ゴジラは作られていない。当然、東宝は『シン・ゴジラ』の次を考えているだろうし、秘密裏に進行している企画があっても何の不思議はない。

 

いずれにせよ、次にくる日本の実写ゴジラに立ちはだかるハードルは、ある意味で『シン・ゴジラ』よりも高いものかもしれない。

 

繰り返しになるが、『シン・ゴジラ』はシリーズの中に置いてみると、非常に異色な作品だ。つまりこの映画で初めてゴジラに熱狂した人々の多くは、過去の作品を見て同じように面白いと感じるかというと、決してそうではないだろう。

 

シン・ゴジラ』が獲得した観客達を、惹き付けられるもの。かつ、元々シリーズのファンだった人々も納得させられるもの。これから作られるゴジラ映画には、自ずとこれらの枷がはめられているように思う。もちろんそれに縛られる必要など全くないのだが、『シン・ゴジラ』が初代の呪縛から抜け出した一方で、それ以降の作品は『シン・ゴジラ』という存在を意識しないわけにはいけない。それは新たな呪縛となった。

 

だからこそ、一体どんな発想で次なる怪獣王の世界を描き出してくれるのか、楽しみで仕方がない。はたして、誰が庵野という大怪獣に挑むのか…?

 

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