悠田ドラゴのAll-Out ATTACK!!

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怪獣王の新時代──2010年代のゴジラ快進撃⑧

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ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』 #1

ギャレス・エドワーズ監督作『GODZILLA ゴジラ』が、アメリカから2ヵ月ほど遅れて日本で公開された2014年7月下旬。“コミコン インターナショナル サンディエゴ”に出席したレジェンダリー・ピクチャーズのトーマス・タルは、同作の続編が制作されることを明かした。その発表について驚愕したのは、彼が東宝から使用許可を得たという三体の怪獣の名前である。ラドンモスラ、そしてキングギドラ。レジェンダリーは『GODZILLA ゴジラ』の次に『三大怪獣 地球最大の決戦』を、ハリウッドで再現しようとしていた。

 

さらに翌年には、ゴジラキングコングが相まみえるクロスオーバー作品の制作が示唆される。ワーナー・ブラザーズとレジェンダリーは、日米のスーパー・モンスターを同一の世界に解き放った映画内ユニバースを創造しようとしていたのだった。果たしてこの構想は、2014年の『GODZILLA ゴジラ』を起点とする“モンスター・ヴァース”シリーズへと発展。同シリーズにおいて物語上の重要な柱を担う秘密組織モナークとコングの邂逅を描く前日譚『キングコング:髑髏島の巨神』、ゴジララドンモスラキングギドラが激突する『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(以下『KOM』)、そして件の『ゴジラVSコング』という3作品が制作/公開されることとなった。2010年代後半、我々はかつて経験したことのない驚天動地の大怪獣時代へと突入したのである。

 

そうした発表がなされた時点ではまだ、前作に続きギャレスが『KOM』の監督として続投する予定だった。彼は『GODZILLA ゴジラ』の後、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』というこれまた超大作を任され、その仕事を完遂し、興行的にも大成功を収める。時代の寵児と言って差し支えない存在となった。しかし、「小規模作品に取り組むため」という意味深長なステートメントを残し、ギャレスは『KOM』から降板してしまう。

 

ここでレジェンダリーは、ギャレスが手放したメガホンをマイケル・ドハティに託す。『X-MEN2』や『スーパーマン リターンズ』の共同脚本を務めた他、同社制作の『クランプス 魔物の儀式』といった作品を監督した人物である。莫大な予算を使って、ハリウッドの最先端映像技術を駆使し、東宝が誇るスター怪獣の一大バトルを描く。そんな贅沢を極めた怪獣ファンにとって垂涎の…いや、嬉しすぎて失禁するようなチャンスを手にしたドハティは、幼い頃から『ゴジラ』シリーズを貪るように見て育った筋金入りのオタクだ。特に1954年の初代『ゴジラ』に対する愛着は強く、ギャレス版ゴジラのデザインを引き継ぎつつも、新作の制作にあたり、彼は自らPhotoshopで前作のゴジラに初代の背びれを合成し、「こんな感じで」とデザイナーに提示したそうだ。(『映画秘宝 2019年2月号』より)。

 

ドハティはギャレスが確立した“自然界の調停者”としてのゴジラ像を崩すことなく、“怪獣王”としての側面を『KOM』でブーストさせる。そこには彼自身の、ゴジラに対する敬意や思慕といった感情が、ストレートに投影されているように思う。

 

「巨大なクリーチャーが僕たちの生活をしている地面の下で眠っていて、ある時それが目覚める。彼らは元々いた存在だから、どこを見ても怪獣がいる世界になって、人類はそれに合わせて生きていかなくてはいけない。そんなことを子供ながらに夢想していたんです」
「僕は怪獣が表現しているのは、母なる自然だと思うんです」

 

これらはパンフレットで確認できるドハティの言葉だが、『KOM』にはこうした彼のビジョンが、物語から登場人物の台詞にいたるまで、隅々まで色濃く反映されている。特に前作から引き続き登場するモナークの研究者:芹沢猪四郎博士は、ドハティの代弁者とでもいうべき存在だ。世界各地でゴジラに匹敵する巨大生物──劇中では“タイタン”と呼ばれる──の存在が次々と確認され、それらを駆逐すべきという声が高まる中、芹沢はタイタンが世界の支配者であることを甘受し、彼らと共生すべきと訴える。

 

言うなれば本作は、母なる自然の化身たるゴジラがタイタンの頂に立ち、芹沢博士=ドハティが理想とするGODZILLA RULESな世界を形成するまでの物語だ。そこで障壁となるのは、地球環境にとって害悪でしかない文明社会は、怪獣達によって滅ぼされるべきと過激な思想を振りかざすテロ集団によって目覚めさせられたギドラである。地球由来の怪獣王ゴジラが、宇宙からやってきた侵略者ギドラと対峙。そこにラドンモスラといった他のタイタンも加わり、地球の統治者を決する死闘へと突き進む。

 

そこに人間が介入する余地はない。ドハティは自然という存在がどれだけ恐ろしいものなのか、その存在に対していかに人間がちっぽけで無力な存在であるか、映画を介して我々に突きつけてくる。そして「ゴジラを讃えよ、ゴジラ万歳!」という、監督のピュアな思いをあまりにもストレートに描写してもいる。端的に言えば、本作はそんな映画である。

 

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