悠田ドラゴのAll-Out ATTACK!!

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『ナイトホークス』負けるなスタローン! 快作なスライ応援ムービー

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『フィスト』『パラダイス・アレイ』(ともに1978年)と、映画としては秀作であったにもかかわらず興行的にはパッとしなかった2作の後、シルベスター・スタローンは再びグローブをはめ、自らの原点であるあの男を演じることを決意。『ロッキー2』(1979年)を作ります。主演だけでなく監督・脚本も務めた本作はビッグ・ヒットを記録し、傾きかけたキャリアを軌道修正することに成功しました。


そんな『ロッキー2』に続くスタローン主演作が、アクション・スリラー『ナイトホークス』(1981年)です。本作でスライは、スタンリー・キューブリックのごとき口ひげを蓄えたモジャモジャヘアの刑事ディークを演じています。


映画はニューヨークを舞台にディークと相棒のフォックス(演じたのは『スターウォーズ』シリーズのランドでお馴染みビリー・ディー・ウイリアムス)が、ヨーロッパからやってきた危険なテロリスト:ウルフガーに立ち向かうというお話。この悪役を演じているのが、昨年鬼籍に入ったルトガー・ハウアーです。彼にとってのハリウッド・デビュー作が、この『ナイトホークス』でした。


非常に雑なことを言いますと、この映画は“スタローン応援ムービー”であるということに尽きると思います。そもそも彼の作品は、『ロッキー』にしろ『ランボー』にしろ『オーバー・ザ・トップ』にしろ『コップランド』にしろ(中略)すべてスライを応援せずにはいられないわけですが、『ナイトホークス』のディークは本当によく頑張ってばかりです。夜道から地下鉄までめちゃくちゃ走りますし、ロープウェイから宙づりになるし、女装もします。


ただ『ナイトホークス』は、劇中のディークだけでなく、この役を演じているスタローン自身を応援したくなってしまうのです。なぜなら…ハウアー演じるウルフガーがあまりにも魅力的で、主役を喰ってしまうほどの強力な演技だから! それによって、「スタローン、喰われてますよ…頑張ってください…!」という気にさせられてしまうわけです。


本作におけるウルフガーの放つ異様な色気と殺気について、映画監督の光武蔵人さんが映画秘宝に寄稿された文が非常に的確で素晴らしい内容でしたので、引用します。

 

冷酷非道で誇大妄想狂のテロリスト。プレイボーイにして完璧な殺人マシーンという悪のジェームズ・ボンドのような、中途半端な役者が演じたら大失敗になりかねないキャラクターを、ハウアーは独特のケレン味で映画映画史に残る悪役へと昇華させた。(映画秘宝2019年10月号より)


そもそも演技云々の前に、ディークとウルフガーではドラマという点で、圧倒的に後者の方が劇的ではないかと思います。一方は別居中の妻と何とかやり直したい暴れん坊刑事がテロ対策班に招集され、手強い敵に翻弄されつつも、持ち前のガッツと閃きを武器に鉄槌を下す話。一方は、爆破テロで子どもを巻き込んだかどで組織から見放された男が、自身の力量を見せつけて再び信頼を勝ち取るため、ATAC(対テロリスト・アクション・コマンド部隊)率いる宿敵ハートマンの追跡をかわしながら、ニューヨークで新たなテロを仕掛ける話(ちなみにハートマンはウルフガーの仲間の女性テロリストによって惨殺されます)。やっぱり、ウルフガーのストーリーの方が超えるべき壁があって、手に汗握る感じがしませんか。


残虐っぷりも最高で、全力疾走で追いかけてきたランドもといフォックス刑事を物陰で待ち伏せ、ナイフで顔をザックリ切り裂いたり(幸い命に別状はありませんでした)、無抵抗の女性を蜂の巣にしてロープウェイから海へ突き落としたり…。清々しいまでに振り切った悪行を見ていると、何だかウルフガーに勝ってほしいとすら感じるようになります。これはあれですね、『ダークナイト』のジョーカーとかと同じです。


だがしかし、やっぱりそこはスライへの愛情で思いとどまって、「ウルフガー、頑張って…いや違う! スタローン、頑張れ! ハウアーに喰われるな!!」となるわけですね。そのため『ナイトホークス』は、登場人物への感情移入とメタ的視点の両方で熱くなれるという点で、最高の“スタローン応援ムービー”といって差し支えないのです。


ちなみに、ディークのドラマ性が希薄になってしまったのは、スタジオの意向で尺を短くするために、かなりの大事なシーンがカットされてしまったためなのだそうです(ソースはIMDb)。また、レイティングを免れるため、血まみれのハードなシーンも削除されたそうな…ああ、もったいない!

 

本記事は2020年12月12日にnoteで公開したものです。