悠田ドラゴのAll-Out ATTACK!!

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カテゴリーをご覧になれば、どんなブログかだいたい察しがつくかと思います。

コーマ・ドゥーフ・ウォリアー:怒りのデス・ギター

人面マスクを被って赤いツナギに身を包んだ、初期スリップノットのメンバーみたいなルックス。

ヘッドから火を噴くヘンテコなギターを抱えた、奇想天外な音楽戦士である彼の名はコーマ・ドゥーフ・ウォリアー

言わずと知れた『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の人気キャラであります。

 

2時間ある本編のうち、彼の出番は2分にも満たないのですが、その強烈が過ぎる個性でもって彼の存在は観客の脳髄にこびりついて、こすっても落ちやしないものとなりました。

 

『怒りのデス・ロード』のヴィラン:イモータン・ジョーの率いる軍団は武装した改造車を駆り、獅子奮迅の勢いで主人公のマックスたちを追っかけ回すわけですが、ドゥーフ・ウォリアーが乗っているドゥーフ・ワゴン(ドラム・ワゴン)はそれら改造車の中でもこれまたユニーク。

4つの太鼓とイングヴェイ・マルムスティーンが嫉妬しそうなくらいの大量のスピーカーが内臓された巨大ダクトを積載していて、フジロックなどで重宝しそうな、いわば移動式ライヴ・ステージとなっています。車両の天井部はドゥーフ・ウォリアーがパフォーマンスするための舞台であり、大量のスピーカーを背にギターをかき鳴らすその姿は、往年のギター・ヒーローさながら。

 

なぜ彼が戦闘中にギターを弾いているのかというと、決してさぼっているわけではありません。指揮官=イモータン・ジョーの命令をギターとドラムの爆音アンサンブルによって、軍団全体に行き渡らせる重要な役目が与えられているのです。

 

ドラム・ワゴンの目的のひとつは、ウォー・ボーイズたちに音でシグナルを送り、イモータンの戦闘指示を伝えることだ。ギブソン(※1)はこう説明する。「どんな軍隊にも鼓笛隊がついている。爆音をたてて砂漠を突っ走る爆走軍団は、派手な銃声を響かせているだけでなく、鋼鉄製のシャーシの上では武器や道具が跳ねてガンガン音をたてている。コーマ・ドゥーフ・ウォリアーは目が見えない。しかし、戦争のテーマを演奏する。メトロノームを思わせるビートを刻み、音楽でウォー・ボーイズの行動をまとめあげる。V8エンジンの咆哮のなかではほとんど何も聞こえないので、ドラム・ワゴンには巨大なPAとスピーカーシステムが装備されている」


『メイキング・オブ・マッドマックス 怒りのデス・ロード』(玄光社刊)より

1 ギブソンとは、美術監督のコリン・ギブソンのこと。

 

 

さて、ドゥーフ・ウォリアーが手にしているのは、6弦ギターと4弦ベースが組み合わさったダブル・ネック・ギターであります。6弦ギターの方を弾いていることが多いですが、映画をよくチェックしてみると、2ヵ所でベース・ネックを持って演奏している箇所を発見。1つはちょうど本編の半ばあたり、夜の湿地でイモータン軍団が立ち往生するシーン。もう1ヵ所はマックスがドゥーフ・ワゴンに飛び移って、ドゥーフ・ウォリアーからギターをぶん捕る直前のシーンです。人食い男爵の乳首いじりなみにどうでもいい情報でした。閑話休題

 

4人のドラム隊が叩くプリミティブな躍動感に満ちたビートとヘヴィなギター・リフが織りなす爆音アンサンブルは、聴く者を鼓舞する危険なまでの活力でみなぎっており、モリモリと闘争心が沸き上がってきます。ドゥーフ・ウォリアー達の演奏は命令を伝達するだけでなく、戦意高揚にも大きく貢献しているわけです。(ブライアン・タイラーの手掛けた『ランボー 最後の戦場』の音楽もこんな感じで最高ですよ)これについて、ジョージ・ミラー監督は次のように述べています。

 

90年代にオーストラリアの荒野に巨大なサウンドシステムを運んで、ダンス・パーティするのが流行した。そのサウンドシステムの重低音の響きから「ドゥーフ」と呼ばれた。戦いに楽隊を同行させるのは、大昔からある。未開の部族は戦いの太鼓を叩くし、英国やスコットランドの軍隊も戦場で鼓笛隊やバグパイプを鳴らしながら突撃した。
『マッドマックス・ムービーズ 近未来バイオレンス映画大百科』(洋泉社刊)より

 

また、同書のインタビューでジョージ・ミラーは、「私は『マッドマックス』をロック・コンサートみたいな映画にしたかったんだ」とも述べています。このロック・コンサート感を演出する上で、ドゥーフ・ウォリアーの存在がいかに重要だったのかは、説明するまでもありません。なにせ、ロック・コンサートには狂ったギタリストが不可欠なのだから。

 

彼のギターから炎が吹き上がる様は、KISSモトリー・クルーラムシュタインなど多くのロック・バンドが取り入れている、パイロを用いた過激なライヴ演出を彷彿させます。つまりドゥーフ・ワゴンは、軍隊の楽団をロック・パフォーマンス調にアレンジしたものと解釈することができるでしょう。

なお、彼のダブル・ネック・ギターは一般的なギターでは考えられない材で構成されており、例えばペグ(弦をチューニングするためのパーツ)には自動車用の点火プラグを採用。そしてジョージ・ミラーによると、ボディー材には便座(?)が使われているそうです(※2)。つまり、クイーンのブライアン・メイもあっと驚く、スーパーDIYギターなのだ!

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www.cnet.com

 

 

それから、最後にドゥーフ・ウォリアーの出自についてもお話しておきたい。彼のバックグランドはジョージ・ミラーが考えた基本設定と、それをもとにドゥーフ・ウォリアーを演じているiOTA(ミュージシャン/俳優/戯曲家)が考案した独自のストーリーがあるのですが、その2つを合わせると、大体次のような話になります。

環境破壊の影響によって生まれつき目が見えない男の子は、ミュージシャンである母親と幸せに暮らしていた。ところがある日、何者が2人を襲い、母親は首チョンパというむごい目に。愛する母の首を抱きかかえる若き日のドゥーフ・ウォリアーを保護したのが、他ならぬイモータン・ジョー様だった。彼の軍団に迎えられたドゥーフ・ウォリアーは、母の頭皮をはぎ、それを被って戦場に赴いていったのである

彼は母親と一体となり、自分達に降り掛かったこの世の不条理を呪いながら、ギターを介してその怒りを世界に放ち続けているのかもしれませんね。


【おまけ】ドゥーフ・ウォリアーのギター・サウンドを作るには?

ドゥーフ・ウォリアーの演奏の大部分は、『怒りのデス・ロード』の音楽を担当したトム・ホーケンバーグ自身がプレイしたものです(ヤー・ヤー・ヤーズのギタリスト:ニック・ジナーもレコーディングに参加)。

 

以下、トムの経歴。彼はオランダ出身のマルチ・プレイヤーなミュージシャン/プロデューサーで、これまでにニュー・ウェイヴ・グループのウィークエンド・アット・ワイキキや、インダストリアル・ロック/ヘヴィ・メタル系のナーヴといったバンドに参加した他、1997年から自身のソロ・プロジェクト:ジャンキーXLでも精力的に作品を発表。また1996年頃から映画音楽の制作にも携わるようになり、その後ハンス・ジマーが手がけるサウンドトラックにリミキサー/共作者という立場で参加した。そして、彼にとって転機となった作品が、2014年の『300 スリーハンドレッド〉 ~帝国の進撃~』。同作でトムの書いたスコアを気に入ったワーナーブラザーズの重役が、彼をジョージ・ミラーに紹介したことがきっかけで、トムは『怒りのデス・ロード』の音楽を任されることになったそうな。この後、彼は『デッドプール』(2016年)や『ターミネーター:ニュー・フェイト』(2019年)といった話題作に起用され、ハリウッドの売れっ子映画音楽作家への道を駆け上がっていったのである。

 

そんなトムが『怒りのデス・ロード』の音楽制作について解説したレクチャー動画が、ネット上にアップされています。

youtu.be

動画の中で、トムは『怒りのデス・ロード』の音楽制作にあたりストーナー・ロックを意識したと語っています。カイアス、オーディオ・スレイヴ、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジといったバンドを例に挙げ、彼らの音楽で聴ける重々しいグルーヴィなギター・リフがこの映画にはピッタリだと考えたそうです。

 

そして動画では、レコーディングで使用した機材についても詳しく紹介されているではありませんか! これであのヘヴィ・サウンドを出せるぞ!

~~~『怒りのデス・ロード』ギター・レコーディング 機材リスト~~~
ギター:ギブソンSG1974年製)
ギター:ギブソンレスポール
 ※ギターのチューニングは6弦からCGCGBE(オープンCmaj7チューニング)
アンプ:オレンジThunderverb 200”(ヘッド)&4発入りキャビネット
エフェクター:フルトーンFull-Drive 2 Mosfet(オーヴァードライヴ・ペダル)
エフェクター:フルトーンFat-Boost Model FB-2”(ブースター・ペダル)

 

余談ですが、トムは2021年公開予定(延期しませんように!)のモンスターバース・シリーズ最新作『Godzilla vs. Kong』で音楽を手がけることを、自身のTwitterで明かしています。『怒りのデス・ロード』のような血湧き肉踊るビートが流れる中、日米のモンスター・アイコンが激突する想像しただけでも胸が高高鳴るじゃないですか。彼の音楽によって、『Godzilla vs. Kong』にどんなマジックが引き起こされるのか、マジで楽しみです!!

 

本記事は、2020年7月9日にnoteで公開した文章に修正を加えたものです。