ビルとテッドのエクセレント・ギター・ジャーニー
EVHを引き抜こうとしたアマチュア・バンド
まだ本格的なブレイクを果たす前のキアヌ・リーブスと、俳優としてだけでなく監督・プロデューサーとしても活躍しているアレックス・ウィンターがダブル主演を務めた、SFコメディ『ビルとテッドの大冒険』。
カリフォルニア州サン・ディマスに住む主人公の高校生2人組:ビル(アレックス)とテッド(キアヌ)は、病的なまでに陽気で、かつ筋金入りのアホです。彼らはともにギタリストで(まともに弾けない)、“ワイルド・スタリンズ”(本当はスタリオンズですが、アホなためバンド・ロゴのスペルが間違っている)というバンドを組んでいるのですが(ギター以外のパートはいない)、学校の成績が悪すぎて落第寸前の状態。
もし次の歴史の研究発表が先生に認められなければ、テッドは強制的に陸軍学校に入れられることになっており、そうなるとワイルド・スタリンズは解散する他ありません。
そんな2人のもとへ、未来からルーファスという男(演:ジョージ・カーリン)がやって来ます。彼は、将来人類にとって最も偉大なアーティストとなるワイルド・スタリンズの解散を防ぐため、ビルとテッドが歴史の発表を無事クリアできるよう手助けするために遣わされた使者でした。彼から借りた電話ボックス型のタイムマシンに乗り、2人は過去へと向かい、歴史上の重要人物たちを尋ねて回ります…。
映画の冒頭、ビルとテッドはガレージでギターを手に、カメラを回してビデオを撮影していました。一応演奏しているのですが、音楽的にはめちゃくちゃで、聞くに堪えないレベルです。そして音量を上げ過ぎてアンプをぶっ壊した後、次のような会話を始めます。
ビル「スーパー・バンドになるためには、エディー・ヴァン・ヘイレンをワイルド・スタリオンズに迎えなきゃな」
テッド「でも、そのためには、ミュージック・ビデオを作って彼に観てもらわないと」
ビル「いや、その前にちゃんとした楽器を手に入れなきゃ」
テッド「楽器があっても、上手く弾けないとダメだろ」
ビル「だから、エディー・ヴァン・ヘイレンに入ってもらえばいいだろ!」
テッド「そのためにミュージック・ビデオが必要なんだってば!」
ビル&テッド「…それ最高!」
そのガレージの内部にはヴァン・ヘイレンのライヴ写真がプリントされたポスターが貼ってあり、観客はここで彼らがヴァン・ヘイレンの大ファンであることがわかります。
エディー・ヴァン・ヘイレンの逝去を、彼の息子でバンドのベーシストであるウルフギャングが発表してから間もなく、シリーズ最新作『BILL & TED FACE THE MUSIC』のTwitter公式アカウントが、以下の投稿をしました。
— Bill & Ted 3 (@BillandTed3) 2020年10月6日
ジャーナリストのDave Itzkoffの投稿を引用して、エディーの死を悼むものでしたが、氏のツイートに載せられている動画が、いまご紹介したガレージでのビルとテッドのやり取りです。
2人のエクセレントな大冒険はここからスタートしたわけですが、破天荒なギター・プレイでロック・ミュージックの風景を一変させたエディーを敬愛し、彼に憧れるビルとテッドが、やがて音楽で世界に秩序をもたらすという構図が、作品の中で成り立っています。もしかすると2人は、ヴァン・ヘイレンの音楽に触発されてギターを手に取ったのかもしれません。
また、劇中でビルとテッドは、イカしたアイデアを思いついたり何かいいことがあったりした時に、速弾きのポーズを取ってエア・ギターを演じます(ピロピロという実際のギターのサウンドが効果音的に付いてます)。で、このときビルはタッピング──いわゆるライト・ハンド奏法っぽい動きをするんですが、この奏法はエディーの名をシーンに轟かせた彼の代名詞ともいうべきテクニックです。
こういったことを踏まえると、エディー・ヴァン・ヘイレンというギタリストが『ビルとテッド』シリーズを語る上で欠かせない存在であることが窺い知れるでしょう。
エクストリームのエクストリームなプレイに乗って大暴走
『ビルとテッドの大冒険』のサウンドトラックにはいわゆるハード・ロック/ヘヴィ・メタル系のバンドが参加しているのですが。中でもヌーノ・ベッテンコート率いるエクストリームが提供した「Play With Me」が流れるシーンは非常に印象的です。
歴史の研究発表に参加してもらうため、過去から偉人たちを無理矢理連れて来たビルとテッドは、暇つぶしのため彼らをショッピング・センターに連れていきます。2人は行方不明となったナポレオンを探しに──そのときナポレオンは何をしていたかというと、ウォーター・スライダーで遊んでいました──その場を離れるのですが、偉人たちが大人しく待っているはずがなく、好き勝手に遊び始めるわけです。若いお姉さんをナンパするソクラテスとフロイト、金属バットやホッケーの防具を身につけ警備員と格闘するジンギス・ハン、写真スタジオからハットをパクるリンカーン、エアロビ教室に乱入して講師をステージから突き落とし、全力で踊り狂うジャンヌ・ダルク…。こういった調子で、各々がショッピング・センターを満喫しているシーンを、「Play With Me」のエクストリーム(過激)なギター・ソロが盛り上げます。
映画で流れているのは、モーツァルトの「トルコ行進曲」の一節を引用したイントロと間奏のギター・ソロをつないで編集された音源です。で、面白いのが、劇中ではこのソロを楽器店に迷い込んだベートーベンがシンセで弾いているかのように演出されていること。鳴っている音は完全にギターですが、シンセという未知の楽器に触れて興奮したベートーベンが、即興で「Play With Me」のソロを奏でているかのように映画では描かれています。
この狂騒は羽目を外しすぎた偉人達が全員警察に連行されるという形で終わるのですが、あまりにくだらない展開も含めて、シリーズ屈指のハチャメチャで楽しい場面だと言えるでしょう。
ちなみに、映画の終盤には見事歴史の研究発表をパスできたビルとテッドのもとへ再びルーファスが現れるのですが、彼は記念に2人とセッションしたいと言い、ギターの腕前を披露します。ここでルーファスはビルとテッドよりも100倍くらい上手い、強烈なアドリブ・ソロを披露するのですが、この演奏を担当したのはギタリストのスティーヴィー・サラスです。
先に紹介したヌーノもスティーヴィーも、エディーを自身のギター・ヒーローとして語り、彼へのリスペクトをインタビューなどで披瀝してきました。とどのつまり、この映画は主人公2人組も含めて、ヴァン・ヘイレンを愛する人々によって成り立っていると言っても過言ではありません。
物語もギターもパワー・アップした『地獄旅行』
『大冒険』から3年後を描いた続編の『ビルとテッドの地獄旅行』では、タイムワープものだった前作とは異なり、タイトル通りビルとテッドが地獄巡りをする話です。
ワイルド・スタリンズがもたらしたエクセレントな世界を嫌う一味が、未来からビルとテッドそっくりの殺人サイボーグを現代へ送り込み、彼らを暗殺しようとする、いわば『ターミネーター』的な展開で映画はスタート。ビルとテッドは崖から突き落とされまんまと殺されてしまい、幽霊と化した2人は現世を彷徨うのですが、いろいろあって地獄に落とされてしまいます。
この粗筋だけでも、『地獄旅行』が前作を超えるスケールとアホさを併せ持った続編だということがわかると思いますが、本作はそれだけでなく音楽面もパワー・アップ。ウィンガー(「Battle Stations」)、メガデス(「Go To Hell」)、フェイス・ノー・モア(「The Perfect Prime」)、プライマス(「Tommy The Cat」)など、サウンドトラックに名を連ねるバンドが強力なのは言わずもがな、『地獄旅行』で特筆すべきはギター・マエストロ:スティーヴ・ヴァイの参加です。彼は「The Reaper」というインスト曲を提供しているだけでなく、ビルとテッドのエア・ギターの効果音も担当。『大冒険』よりもヴァリエーション豊かなピロピロ・サウンドで、映画を彩ってくれています。
また、本作のクライマックスはバンド・バトル(コンテスト)が舞台で、サイボーグと未来からやってきた敵の首領:デ・ノモロス(演:ジョス・アックランド)を撃退したビルとテッドは、16ヵ月間ギターの猛特訓を積んだ後、タイムマシンを使ってステージに帰還(要は『ドラゴンボール』の“精神と時の部屋”で特訓し、強くなってきた的な展開です)。さっぱり楽器の弾けなかった2人はミュージシャンとして大いに成長し、最高のロック・パフォーマンスを披露します。
ここで流れる曲が、KISSの「God Gave Rock 'N' Roll To You II」。アージェントの楽曲「God Gave Rock And Roll To You」のカヴァーである同曲は、ゆったりとしたテンポで大人しめのロック・ソングですが、ワイルド・スタリンズが遂に世界的スーパー・スターへと駆け上がる道を切り開いた場面に相応しい、至高のメロディーを有する名曲であります。映画で流れるヴァージョンではCD版と違い、KISSっぽくない音のリード・ギターが鳴り響いていますが、これはスティーヴ・ヴァイが弾いたものです。
こうして振り返ってみると、『ビルとテッドの大冒険』と『ビルとテッドの地獄旅行』は現在から見てもトップ・レベルのギタリストによるプレイで満ち溢れた、最高のギター・ムービーであったことがわかります。そして、彼らの多くが多大なる影響を受けたギタリストがエディー・ヴァン・ヘイレンであり、彼はワイルド・スタリンズの原点であり、ビルとテッドが目指すギター・ヒーローでもあったわけです。
本記事は2020年10月12日にnoteで公開した文章を修正したものです。