悠田ドラゴのAll-Out ATTACK!!

悠田ドラゴのAll-Out ATTACK!!

カテゴリーをご覧になれば、どんなブログかだいたい察しがつくかと思います。

『ゴースト・オブ・マーズ』火星で首チョンパなホラー・バトル・ムービー

映画を観ていて無条件で気持ちが昂ってしまうのが、“首チョンパ”のシーンです。人の首がすっ飛ぶというあまりにも非日常的な描写は、ショック表現として抜群の破壊力があります。またそれだけでなく、残虐性が突き抜けているゆえに、コメディ的な文脈でも効果を発揮する点が魅力ではないでしょうか。(ここでいう首チョンパとは、あくまでフィクションにおける表現手法のことであり、現実世界の行為を指すわけではありません。)


映画の作り手達もそれをわかってか、首チョンパはある種のサービス精神に基づいて、数多の作品に盛り込まれてきたように思います。『オーメン』『13日の金曜日』『八仙飯店之人肉饅頭』『スターシップ・トゥルーパーズ』『バトル・ロワイアル』『ファイナル・デスティネーション』『スリーピー・ホロウ』『ホステル2』──アッと驚く首チョンパで観客を打ちのめしたタイトルは、枚挙に暇がありません。また首チョンパは、ロボットなど人間以外も対象となり得ます。『ゴジラ対メカゴジラ』のメカゴジラ、『エイリアン』のアッシュなどが、その体現者と言えるえしょう。


今回取り上げるゴースト・オブ・マーズも、そんな首チョンパな残虐ムービーの系譜にある、2001年のアクション・ホラー映画です。監督は恐怖映画のカリスマ:ジョン・カーペンター。彼は脚本・音楽も手がけています。


カーペンターの代表作といえば『ハロウィン』(1978年)や『ニューヨーク1997』(1981年)、『遊星からの物体X』(1982年)、『ゼイリブ』(1988年)あたりが挙げられることが多く、『ゴースト・オブ・マーズ』が大きくフィーチュアされることはあまりないと思います。しかし、国内屈指のカーペンター研究者として知られる映画文筆家の鷲巣義明氏が「マカロニ・ウエスタン、ロック、ホラー、SF、ラヴクラフトといったカーペンターの大好きな要素がすべて詰め込まれた、まるでカーペンター映画のフルコースみたいな作品」「表現者たるカーペンターの欲望と思いがたっぷり詰まった、いい意味でのCHAOSSのような作品」(洋泉社刊『映画秘宝ディレクターズ・ファイル ジョン・カーペンター 恐怖の倫理』より)と評しているように、本作は彼の作家性が炸裂した、ベスト・オブ・カーペンターとも言うべき1本となっています。


そのあらすじは──2176年、資源不足と人口過剰によって追いつめられた人類は、火星を植民地にしていました。そこで警官をしているメラニー(演じているのは『スピーシーズ』のセクシー・エイリアンでおなじみナターシャ・ヘンストリッジ)は、凶悪犯ウィリアムズ(ラッパーのアイス・キューブが好演)を引き取るため、鉱山町のシャイニング・キャニオンへ数人のメンバーとともに向かいます。


しかし、メラニーたちを待ち受けていたのは惨殺された死体の数々、そしてゾンビのように凶暴化した住人たちでした。いったい彼らに何が起きたのか…? やがて彼女たちは、シャイニング・キャニオンの住人たちが、火星のゴーストに取り憑かれて野蛮な戦闘集団へと変貌してしまった事実を知ります。窮地に陥ったメラニーたちは、牢屋に入れられていたウィリアムズら囚人たちと手を結び、町からの脱出をはかるのでした。


監督のジョン・カーペンターはミュージシャンでもあり、多くの作品で音楽を担当していることはよく知られています。『ゴースト・オブ・マーズ』でもその手腕が遺憾なく発揮されていますが、特筆すべきはメタル・バンド:アンスラックスが制作に参加している点。メタリカメガデス、スレイヤーと並んでスラッシュ・メタル四天王の一角を担う彼らの演奏は、カーペンターの作品にかつてないほどの躍動感とエネルギー、そしてロックなフィーリングをもたらしました。

 

劇中のバトル・シーンやショッキングな場面──ゴースト集団の餌食となり晒し首状態になったブラドッグ指揮官(演:パム・グリア)を、ジェイソン・ステイサム演じるジェリコが発見するところや、バシラ(演:クレア・デュバル)の首が敵の放った円盤カッター(勝手に命名)によりすっ飛ぶカットなどが特に最高──では、たいていズンズンと刻まれるヘヴィなギター・リフと、ベース&ドラムのリズム隊が生み出す戦車のようなパワフルなビートが、のべつ幕なしに観客を襲います。それによって『ゴースト・オブ・マーズ』は、異様な高揚感をキープして突き進む、カーペンター作品の中でも一、二を争うハイ・テンション・残虐ムービーとなったのです。

 

レコーディングに参加したアンスラックスのメンバーは、スコット・イアン(リズム&リード・ギター、ドラム)、ポール・クルック(リズム&リード・ギター)、フランク・ベロ(ベース)、チャーリー・ベナンテ(ドラム)の4人ですが、本作の音楽制作にはスティーヴ・ヴァイバケットヘッドという2人のギタリストも加わっています。彼らはテクニカル・ギター・シーンの中でもトップ・クラスの技量を持つ実力派であり、かつプレイの変態さでも有名です。

 

ロック・ファンにとっては贅沢きわまりない布陣が揃ったわけですが、残念なことに、ヴァイとバケットヘッドの流麗なテクニカル・フレーズは、映画本編ではほとんど(ヴァイに関しては全く)聴くことができません。そのプレイを思う存分堪能するには、ギター・ソロがしっかりと収められたサントラ盤を買わなくてはいけないのです。

 

収録順&曲名でいうと、①「Ghosts of Mars」⑫「Ghost Poppin'」でヴァイ、②「Love Siege」⑥「Kick Ass」⑩「Fightin' Mad」でバケットヘッドがそれぞれ客演しています(⑩の聴覚を切り裂くようなヘヴィ・リフに、奇妙なノイズがまぶされたサウンドが特に素晴らしい!)。ちなみに同サントラ盤では、④「Visions Of Earth」⑤「Slashing Void」⑨「Dismemberment Blues」でカーズのギタリスト:エリオット・イーストンがプレイしていることも見逃せないでしょう。


ゴースト・オブ・マーズ』は、こうしたロック・ミュージシャンの妙技とカーペンターの暴力映像表現が融合したことで、唯一無二の味わいを獲得しました。その妙味は、公開から20年近くが経った今もなお、薄れることはありません。

 

本記事は2020年7月24日にnoteで公開したものです。