悠田ドラゴのAll-Out ATTACK!!

悠田ドラゴのAll-Out ATTACK!!

カテゴリーをご覧になれば、どんなブログかだいたい察しがつくかと思います。

『学校の怪談』は異形の映画に通ず

きっと誰しも、映画に対する好みとか価値観を形成する上で外せない作品ってあるじゃないですか。
私の場合、そのうちの1本に間違いなく入るのが『学校の怪談』であります。
「うひひひひひひひひ……」でお馴染みの、1995年に公開されたホラー・アドベンチャーです。

 

当時私は小学1年生。静岡は御殿場に昔マウント劇場という映画館がありまして、そこで鑑賞しました。
ぼんやりとした記憶しかないのですが、映画館に着いたとき、まだ前の回が上映中で、売店でお決まりのスナック菓子を買って待っていたような気がします。
で、なぜだか劇場の扉を開けてみたのです。
そしたら、スクリーンいっぱいに映し出されていたのは、ぎょろ目のくっついた気持ち悪い眼鏡ですよ。ギョエッ!

 

あの邂逅は、四半世紀ほど経った今でもわりとはっきり覚えていまして、私にとって『学校の怪談』を象徴するシーンといえばあのヘンテコ眼鏡なんですよね。

奇怪であり、どこかユーモラスでもあり、あり体に言えばグロい。そして怖い。
そういう歪で厭なものを、子ども向けだからと言って変に薄味にせず、こんなの子どもに見せたらトラウマ必至なんではないかというクオリティで提示してみせる。その胆力こそ、『学校の怪談』という作品の素晴らしさなんじゃないかと思います。

 

これについて、劇場用パンフに寄せられている同作のSFXプロデューサーを務めた中子真治さんのコラムの中に、重要な証言があるのでご紹介します。

 

物作りをする時、僕は子供の知性を絶対、過小評価しちゃだめだっていうこだわりを持っていまして、特に今回のような映画の場合、「観るのは子供だから、この程度でいいだろう」っていう作り方をしたら、お終いじゃないかと感じていたんです。

 

さて、『学校の怪談』と言えば、数々のお化けたちが大暴れする1本でもあります。
どん引きするくらいリアルな臓物丸出しの人体標本、これまた内臓さらけ出しのホルマリン漬け生物たち、神出鬼没の花子さん、そして可愛いテケテケなど、個性豊かな面々が揃っていますが、ショッキングという点でクマヒゲさんこと妖怪インフェルノがずば抜けた存在であることは、論をまたないでしょう。

 

用務員のおっさんの口から、いきなりでっかいザリガニみたいのが飛び出してきてですね、引っ込んだと思ったら、背中から甲殻類の足っぽいものが生えてくる。
まさに悪夢製造マシーン。あれはダメです。蟹が食えなくなる。

 

このとてつもなくおっかないクマヒゲさんが、あまつさえ変態を遂げ、クトゥルフ神話に出てきそうな異形の怪物となって襲いかかってくるものだから、さあ大変。
ここに至るまでも登場人物たちの命が危険にさらされている感はありましたが、クマヒゲさん変異後はまさに絶体絶命な展開になってきます。

 

劇中では辛くもクマヒゲさんの執拗な追跡から逃れることができたわけですが、もし捕まっていたらと考えると本当に恐ろしい。例えば、あの口から飛び出す伊勢エビみたいなやつを、自分の口に突っ込まれでもしたら…ああ、嫌だ! そんな『遊星からの物体X』みたいな展開はきつ過ぎる。

 

その辺の線引きも上手ですよね。
怖いしおぞましいけど、ファミリー・ムービーとしての一線はギリギリで超えないライン。
的確な線引きをしつつも、しっかり子どもたちをギョッとさせるし、適度なトラウマを植え付ける。

 

この原体験が、小生の映画人生における方向性を決定づけたのではないかと、今振り返ると思います。『学校の怪談』を通してショックを受けつつも、それなりにショック描写に免疫が出き、なんならああいった怪奇映画に引き寄せられていく。その結果、上述した『遊星からの物体X』を始め『エイリアン』『ザ・フライ』『マウス・オブ・マッドネス』といった異形の映画にどっぷり浸ることになったような気がします。

 

昔はちょこちょこテレビで放送していたような気がしますけど、もはや毎年やってもらいたいですよね。夏休みはラジオ体操・プール・学校の怪談!みたいな。

ゴジラ映画のアガるタイトル・シークエンス ベスト5

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ゴジラVSコング』に向けて士気を高めよう!という目的で勝手に始めた「ゴジラの●×ランキング ベスト5!」ですが、1月25日に同作の本予告が満を持して解禁され、世界中でゴジラ熱がマッドでマックスな状態に。

 

もはやこんな記事を書かなくとも、既にみなさん沸点を通りこして、蒸発しちゃうんじゃないかというくらい沸き上がっているわけですが、悪役背びれの2回で終らすというも何だか中途半端じゃないですか。

 

というわけで、『ゴジラVSコング』が日本公開される(予定の)5月までは、思いついたランキングをしこしこアップしていこうという所存でございます。

 

今回は、ゴジラ映画のアガるタイトル・シークエンス ベスト5!」

 

選考の基準としては、ロゴのデザイン、派手さ、パワフルさ、音楽、テンポ、前後のシーンとのつなぎ方などを考慮している──と、もっともらしく言いたいところですが、有り体に言えば私がどれだけ「かっけ〜!」と感じたか。それがすべてです。

 

 


第5位 ゴジラ対メカゴジラ

荒涼とした岩場が広がるどこかの島。何かを威嚇するように咆哮するアンギラス
そして巻き起こる大爆発。

 

火を噴きながら破裂する岩山を背に、ゴジラゴジラゴジラゴジラゴジラ!と我らが怪獣王の名が素早いズームイン(奥から手前)で5連発叩き込まれます。そこから間髪を入れず、今度は宿敵メカゴジラの名前もズームアウト(手間から奥)のアニーメションでこれまた5連打。

そして画面いっぱいにダダーン!と映し出される『ゴジラ対メカゴジラ』のタイトル。

 

謎の爆発が起こって、ポカーンとしているこちらをよそに、異様なテンションで両主役の名前が叩き込まれるというのが、本作のオープニングであります。
何というか、まだ寝起きでボケ〜っとしているところに、拳骨を10発食らって、なおかつ冷や水をぶっかけられたような、そんな衝撃を受けること請け合いです。

 

で、さらに衝撃的なのが、このタイトル・シークエンスに続くキャストやスタッフのクレジットですよ。さっきまでの剣呑な雰囲気はどこへやら、唐突に沖縄の風光明媚なショットが映し出され、そこに爽やかなでお洒落な音楽が乗っかってくる。まるで自治体の作った観光プロモーションビデオみたいな映像です。

 

この落差も実に味わい深い(気がする)。


第4位 シン・ゴジラ

ドーン…ドーン…と砲撃のごときゴジラの足音がこだまする中、お馴染みの東宝のマークが映し出され、ゴジラの咆哮とともに『シン・ゴジラ』のタイトルへと転換。

 

エフェクトなどを排した非常にシンプルかつ力強い本タイトル・シークエンスは、初代『ゴジラ』のそれを踏襲したものです。ゴジラの足音が一定のテンポで鳴らされており、これによってリズムが刻まれ、グルーヴが生まれる。4ビートの一拍目に和太鼓でアクセントをつけている感じ…とでも言いましょうか。とにかく心地好いし、怪獣映画が始まるというゾクゾク感に駆られること間違いなし。

 

そして、『シン・ゴジラ』を劇場で見ていてしびれたのが、タイトルが映し出された後、絶妙な間合いを取ってから、足音とともに「映倫」の文字がドンッ!と現れるところですね。スタッフやキャストの紹介を入れず、ここからスパッと本編に突入する。この切れ味、このテンポの良さ。

 

本作のクールさというのは、始めから際立っていたのでした。


第3位 ゴジラVSメカゴジラ

度重なるゴジラの襲来に対処するため、日本政府は国連G対策センターを設立。海底に沈んだメカキングギドラの残骸を回収して、23世紀のロボット工学を徹底的に分析し、史上最高最強の対ゴジラ兵器:メカゴジラを開発した──。

 

ゴジラVSメカゴジラ』の冒頭では、こういったあらましがナレーションで語られた後、完成したメカゴジラの堂々たる姿がバストアップで大きく映し出されます。そこに名匠:伊福部昭の手掛けた威風堂々たる劇伴がとどろき、メカゴジラの勇姿にタイトルがドドーンと重なるわけですが、こんなかっこいい音楽と画が合わされば、興奮するなという方が無理な話。ズルい!というくらいに、鉄壁のタイトル・シークエンスだと思います。

 

ここで流れる音楽は、後に『シン・ゴジラ』のエンド・クレジットでも使われ、同作を締めくくる1曲となりました。これを最後に持ってくることで、『シン・ゴジラ』がより格調高くなったというか、さらに映画としての説得力が増したような印象でしたね。そういう有無を言わさずこちらを圧倒するパワーを秘めた、恐るべき楽曲だと思います。


第2位 ゴジラVSデストロイア

体中が赤く発光し、明らかに異常をきたしているゴジラが香港に上陸。
摩天楼に熱線を吐きかけ、大爆発を引き起こしたところで画面が暗転し、タイトル・シークエンスへと移ります。

 

凄まじい咆哮とともに、初代と同じデザインのゴジラ・ロゴが、これまた同じように下からスライド・イン。それが大爆発し(また爆発!)、その炎を飲み込むようにしてオキシジェン・デストロイヤーが登場。まるで海底に沈んで行くかのように、画面奥の闇へと飲み込まれていきます。

 

そして煌びやかな(たぶん)ハープの音が鳴り響く中、ゴジラのロゴが一文字ずつ手前から流れてきて、劇伴が最高潮に達したところで、「VSデストロイア」の文字がド派手なアニメーション付きでドカーンと打ち付けられる。

 

第1作との密接な関係を示すとともに、「VSシリーズの有終の美を飾る」という気概に溢れた、感慨に浸ざるを得ないオープニングじゃないでしょうか。爆発がいっぱい起こるし、炎もメラメラと燃え盛りまくりで、川北特技監督を始めとするスタッフのなみなみならぬ情熱が感じられるところも最高です。


第1位 ゴジラモスラキングギドラ 大怪獣総攻撃

本作のタイトルの何が最高かって、“迫り出すゴジラ”に尽きますね。

 

アメリカの原子力潜水艦が消息を絶ったグアム島沖合で、日本防衛海軍の広瀬中佐が青白く背びれを発光させながら海底を移動する巨大な“何か”を目撃。
「移動中の物体は何か?」と無線で問われ、「自分の目が…信じられません!」と思わず叫んだところで、ゴジラのいかつい巨大ロゴがドドンと文字通り画面から迫り出してきます。

 

タイトル・シークエンスに移るまでの演出や流れも最高ですが、このゴジラの三文字がスクリーンから飛び出してきたときのパワーときたら! 私はこれを勝手に、壁ドンならぬゴジドンと呼称していまして、初見時はすっかりノックアウトされてしまいました。

 

もちろん、その後に続くモスラキングギドラのロゴが神々しく組み合わさって、中央に「大怪獣総攻撃」の副題がバーンと現れる展開もめちゃくちゃアガるわけですが、私はゴジドンの時点で既に昇天してしまいます。そのブルドーザー100台が一気に押し寄せてきたみたいな迫力だけでもって、歴代タイトルの第1位に選ばせていただきました。

『鬼滅の刃』の吾峠先生はカーペンター映画ファン説

鬼滅の刃』を読み始めました。今さら。

 

何やら鬼が人を喰ったり、首が飛んだり、けっこうグロかったり…といった評判は耳にしていて、そりゃあ面白そうだ!と関心は持っていたのですが、小生ランボー・シリーズを見たりで忙しかったものでして。漫画好きの妹に、そのうちちょろっと見せてもらおうかな、くらいにのほほんと考えていたのです。

 

ところが、職場では私を除く全員が『鬼滅の刃』を読了しており、呼吸がどうだとか、よくわからん話をしているわけですよ。その度に私は適当に笑ったりして、何となくその場の空気に乗っている感を出しながら、若干寂しい思いをしておりました。それでも「まあ仕方ない、わしゃランボーを見るので忙しいんじゃい」と独り言ちながら過ごしていたわけですが、ひょんなことから上司にコミックを貸してもらえることになり、遂に空前絶後の大ヒットマンガを体験する時がやってきたわけです。

 

で、数巻読み終って思ったことがあります。

 

これは早い話が、鬼退治版『ヴァンパイア/最期の聖戦』なんじゃないか!?ということです。

 

『ヴァンパイア/最期の聖戦』というのは、1998年に公開されたジョン・カーペンター監督作品。『ヴィデオドローム』などでお馴染みのジェームズ・ウッズ演じるヴァンパイア・ハンター:ジャック・クロウが、吸血鬼を殺しまくるヴァイオレンス・アクション映画であります(人間もめちゃくちゃ殺されます)。

 

ジャックはバチカンから指令を受けて、人間社会に潜む吸血鬼たちを抹殺するヴァンパイア・スレイヤーズの一員なのですが、これはつまり鬼殺隊ですよ。後者は後ろ盾のない非公認組織でしたけれども、スレイヤーズも公にはなっていない秘密組織なので、似たようなものです。

 

また、ジャックは両親をヴァンパイアに襲われ、吸血鬼と化した父親を自ら殺めた悲惨な過去を持っています(ヴァンパイアに咬まれると吸血鬼化するというゾンビ設定なのです)。一方、『鬼滅の刃』で主人公の炭治郎くんも家族を鬼によって惨殺されていますね。非常にピュアで若く、そしてあまりにも優しい炭治郎くんと違い、ジャックは暴力的で態度も悪い海千山千のおっさんですが、2人の境遇は近いものがあるわけです。

 

敵の設定も近いところがあって、日に当たると死ぬ、人間をヴァンパイア/鬼に変えて仲間にする…などが挙げられます。特に『ヴァンパイア/最期の聖戦』のボス・キャラである魔鬼ヴァレックと、炭治郎くんの宿敵である鬼舞辻は、けっこう似ていると思いました。2人ともそれぞれヴァンパイア/鬼の始祖であり、不死身なので長い年月を生き続けています。あと、両者とも色男でめちゃくちゃ強いのです。ヴァレックがどれくらい強いかというと、素手で『殺し屋1』のごとく人を真っ二つにできます。

 

といったところが、『鬼滅の刃』を鬼退治版『ヴァンパイア/最期の聖戦』と解釈する所以なのですが、さらにコミックを読み進めていくにつれ、私は『鬼滅の刃』の作者:吾峠先生が実はジョン・カーペンター監督のファンなのでは!?と思うようになりました。

 

すごくわかりやすいところで言うと、『鬼滅の刃』に蜘蛛をモチーフにした鬼:累さんというのが出てきますが、彼の住む山にいる人面蜘蛛みたいのは、明らかに『遊星からの物体X』のスパイダーヘッドへのオマージュですね。また、鬼達が社会に潜みつつ人間(弱者)を貪って生きながらえているというのは、社会に紛れながら密かに人間を支配して搾取を続けている『ゼイリブ』の構図と重なっても見えます。

 

そして、これにも触れないわけにはいけません。首チョンパ! 『鬼滅の刃』ではまあまあの頻度で首が飛ぶシーンが出てくると思いますが、首チョンパはいくつかのカーペンター映画においても超大事。『ヴァンパイア/最期の聖戦』ではヴァレックに惨殺された仲間や娼婦達が吸血鬼化するのを防ぐためにジャックが亡骸の首をはねるシーンがありますし、他にも『ゴースト・オブ・マーズ』などは首チョンパ・カーニバル・ムービーと呼ぶのに相応しい内容です。

 

ということで、牽強付会は承知の上で言いますが、吾峠先生はきっとカーペンター魂を持った漫画家であり、鬼滅の刃』を通してカーペンターイズムを世に浸透させようとしている伝道師であると勝手に結論づけたいと思います。

 

以上、『鬼滅の刃』のカーペンター映画っぽいところを見つけておじさんがキャッキャッしているだけの駄文でございました。

ゴジラのスクリーン映えする背ビレ ベスト5

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前回は「ゴジラ映画の記憶に残る悪役ベスト5」と題して『VSビオランテ』の工作員SSS9や『VSキングギドラ』の未来人ウィルソンなんかをご紹介したわけですが、今回はゴジラのある部位にランキングをつけたいなと思っております。

 

彼の背中に生えている、かっこいいものと言えば背ビレですね。

 

筋肉のないシュワルツェネッガーなんて想像できないのと同じように、背ビレの生えていないゴジラゴジラと認めるのは難しい。彼をゴジラたらしめている重要なパーツであります。

 

初代ゴジラをデザインするにあたっては恐竜ステゴザウルスの背ビレがモチーフとなったけですが、その形状はシリーズが回を重ねるごとにアレンジが加えられていき、今や『ブレードランナー』のヴァージョン違い並みにヴァラエティ豊かです。

 

ただ最低限のルールみたいなものもあって、配列は3列(5列に見えるものもある)で真ん中の列の背ビレが左右よりも飛び抜けて大きい(後述しますがエメゴジは例外)、という点はだいたい共通しています。

 

その役割は、文献によっては体内エネルギーの調節弁みたいに説明されており(例えば『ゴジラ1954-1999超全集』では「熱線放射時の余剰エネルギーを解放する放電ビレ」という記述があります)、たしかに一番理にかなっている設定かなと思います。ちょろっとググってみると、元ネタのステゴザウルスの背ビレも、体温調節の役割を担っていたという説が有力だそうです。

 

あとは単純に、装飾物としての役割も大きいですよね。サイや鹿の角みたいに、生き物としての強さを象徴しているようにも思えるし、男根的シンボルといっても良いかもしれない。

 

前置きが冗長になっちゃいましたが、ではでは本題にいきたいと思います。

 

ゴジラのスクリーン映えする背ビレベスト5!

 


第5位 ミレゴジの背ビレ


ゴジラ2000ミレニアム』『ゴジラ×メガギラス』
造形:MONSTERS(造形プロデューサー:若狭新一)

 

シリーズ史上、最も主張の強い背ビレと言えるのがミレゴジです。とにかくデカい!トゲトゲ! ソフビを正面から見ると、頭の上からはみ出てちょんまげみたいに見えるくらい主張が強いんですよ、彼の背ビレは。

 

「VSシリーズとは一線を画する新しいゴジラを」ということでプロデューサーの富山省吾氏、監督の大河原孝夫氏、特殊技術の鈴木健二氏らが侃々諤々と議論を交わしていた製作初期から、「大きな背ビレ」はひとつのキーワードになっていたそうな。そこで膨らんだイメージをデザイナーの西川伸司氏や造形の若狭新一氏が具現化したのがこのミレゴジの、剣のごとき背ビレであります。実際『×メガギラス』では、背ビレスラッシュ(非公式)をトンボ大怪獣にお見舞いしておりました。

 

配色も独特で、基本的にゴジラの背ビレは根元が黒(表皮色)で先端側が白なんですが、ミレゴジのは白ではなく紫っぽい。当初はもっとオーソドックスな色味だったのが、「これでは物足りない」という鈴木氏の意向でパールピンクに変更。結果、メラメラと燃え盛る炎のようなルックスの、文字通り先鋭的な背ビレが完成したのでした。

 

第4位 キンゴジの背ビレ


キングコング対ゴジラ
造形:利光貞三ら東宝造形スタッフ

 

キンゴジは『ゴジラ』『ゴジラの逆襲』の造形と比べて、耳がなくなり足の指の数が4本から3本に減った点が大きな変更ですが、背ビレのゴツさが増長されているのも見逃せないポイントです。

 

前2作よりも厚みが増し、やや大きめになった印象の背ビレは、キングコングと組んず解れつの激闘を繰り広げる中でユッサユッサとダイナミックに躍動。背ビレファンにはたまりません。

 

また、本作はシリーズ初のカラー作品であり、熱線を吐くときに背ビレが青白く光るという演出を初めて確認することができた1本でもあります。その後VSシリーズまで連綿と受け継がれてきた、熱線発射時のイメージがこの時確立されたわけですね。そういったゴジラ史観的な重要性も踏まえての4位です。

 

第3位 エメゴジの背ビレ


ゴジラ』(1998年トライスター版)
デザイン:パトリック・タトプロス

 

言うまでもなく本家東宝版とはかけ離れたデザインのエメゴジですが、背ビレも超独特。日本のゴジラは、一番大きな背ビレが中央列の2、3番目に配置されるのが基本なんですが、エメゴジは肩の後ろあたりにある左右の背ビレが突出してデカいんです。そのフォルムが私は凄く好きで、本当にエメゴジの造形はクールだと思うんですよね。

 

この点に関しては、デザイン担当のパトリックさんがちゃんとコンセプトを持って作っておられます。

 

実在する動物ではたいてい後向きになっている背ビレを、攻撃的に見えるように前向きにした。「形もとがったものにしたんだ」とタトプロス。「背ビレには層があって根元の層は500もあるけれど、先の方は層が少なくなっている。木の年輪のような感じだ。そしていちばん大きな背ビレを肩甲骨の上に作った。ゴジラが腕を動かした時に動きが大きく見えるようにね」。(劇場パンフレットより)

 

以前、エメゴジの応援記事も書いとりますので、ぜひこちらも見てみてください。

 

第2位 デスゴジの背ビレ


ゴジラVSデストロイア
造形:小林知己ら東宝映像美術スタッフ

 

ゴジラ死す」という衝撃的惹句でお馴染み『VSデストロイア』のゴジラは、体内の核分裂を制御できなくなり、爆発寸前という生ける核爆弾状態。その身体は所々赤く発光し、背ビレも真っ赤っかです。

 

映画の終盤、体内エネルギーの暴走でもの凄い光線を放出しながら、背ビレから溶けていくシーンがありますけれども、彼の強大さのシンボルが焼失していくというのは非常にショッキングでした。

 

本作の撮影でメインとなったゴジラ・スーツは前作『VSスペースゴジラ』の通称モゲゴジ(シリーズ最大級の2m超え!)を改良したものですが、最もデカい背ビレの位置がひとつ分上に変更されています。それによってやや重心が前に置かれるというか、より攻めな感じが強調されて、VSシリーズでは一番好きですね。

 

当時の造形スタッフの一人である贄田直樹氏によると、スーツには「首の細かい裂け目のムギ球も含めると、全身3000個ほど」(ホビージャパンゴジラVSデストロイア コンプリーション』より)の電飾が施されているそうです。重さは120〜130kgに及んだそうな。

 

いろんな意味で最大級のデスゴジは、その背ビレの美しさも絶品なのでした。

 

第1位 GMKゴジラの背ビレ


ゴジラモスラキングギドラ 大怪獣総攻撃』
造形:Vi・SHOP(代表:品田冬樹

 

出ました! 1位は白目でお馴染みのGMKゴジラ
(GMKの白目については、こちらもご一読ください)

 

平成ガメラのレギオンやイリスといった至高の怪獣造形で知られる品田冬樹氏の手掛けた唯一のゴジラですが、この背ビレは悶絶級に最高です。

 

本作のゴジラ初登場シーンは、原子力潜水艦が沈没した海底でバカでかい何かが目撃されるところですが、そこでフィーチュアされているのが他ならぬ背ビレ。青白く発光するもの凄くデカい背ビレが暗い海底を照らしながら、のっそりと移動していく様は、もう歴代ベストの背ビレといって差し支えないでしょう。

 

ここを見て「これは間違いなくヤバいやつだ!」と、公開当時中坊だった私は劇場で震えましたよ。

 

ヘラジカの角を意識したという形状は、VSシリーズに近いっちゃ近いんですけど、それよりもどこか歪で、面白いシェイプです。この歪さが独特な不気味さを強調しているし、何と言ってもデカくて、すげえ強そうなんですね。

 

個人的にゴジラを後方斜めから煽り気味にとらえたショットが好きなんですけど、GMKゴジラはそのアングルで撮った時に背ビレがめちゃくちゃ映えるんです。ということで、第1位!

 

ちなみに、今回資料として重宝したホビージャパン刊の『ゴジラ造形写真集』は、カバーのそでに歴代ゴジラの背ビレ写真が掲載されていて、背ビレファンには非常に熱い一冊であるということも、最後にお伝えしておきたいと思います。

ゴジラ映画の記憶に残る悪役ベスト5 ─人間・宇宙人・海底人編─

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最近『ゴジラVSコング』まわりが、にわかに騒がしくなってきてるじゃないですか。
全米公開が3月に前倒しされたり、ティーザーにもほどがある小出し映像が解禁されたり。(小出しが過ぎる!)

 

ただですね、ゴジラキングコングが半世紀以上ぶりにタイマンを張るという驚天動地の出来事が起きようとしているのに、いまいち気分が昂らない。
それはコロナ禍という異常事態の中で本当に予定通り公開されるのか疑心暗鬼になっていることもあるし、個人的には前作『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』の内容に対していまだモヤモヤした感情が尾を引いているということもある。

 

それでも、安室ちゃんのラスト・ステージを死に物狂いで盛り上げたアムラーばりに、ゴジラーたる者、この戦後最大級のビッグマッチを盛り下げるわけにはいかないじゃないですか。

 

というわけで、ゴジラ魂を無理矢理にでも奮い立たせるべく、こんなことを始めたいと思います。

 

ゴジラの●×ランキング ベスト5!

 

ラジオ番組の『アトロク』でお馴染み「ひとり総選挙」的な形で、超独りよがりなゴジラにまつわるランキングを、勝手に発表していきますよ。

 

第1回は………ゴジラ映画の記憶に残る悪役ベスト5 ─人間・宇宙人・海底人編─

 

人間・宇宙人・海底人編ですのでね。怪獣は出てきません。
それでは、ゴジラ映画に登場した、身の毛もよだつスーパー・ヴィランのトップ5をご紹介しましょう。

 


第5位 ブラックホール第3惑星人

登場作品『ゴジラ対メカゴジラ』『メカゴジラの逆襲

 

もう名前からして最高ですよ。ブラックホール第3惑星人! よく考えるとブラックホールの第3惑星ってどこよ?と意味がわからないんですけど、何せブラックホールですからね。人智を遥かにビヨンドした存在であるわけで、理解しようとするのがおこがましいのです。

 

そして、その正体も衝撃的。顔がめちゃくちゃゴリラ! あまりにも『猿の惑星』オマージュが全開で、ビックリしちゃいましたね。

 

そのインパクトだけで5位です。


第4位 未来人ウィルソン

登場作品『ゴジラVSキングギドラ

 

なぜだかゴジラが現れなくなり、とんでもない経済大国に発展して調子こいた日本を、「けしからん!」と嫉妬心を爆発させて未来からこらしめるためにやってきた、地球均等環境会議という変な組織のメンバーです。非常に難しい役所ですが、チャック・ウィルソンさんが好演しています。

 

その計画もスケールがデカく、太平洋戦争中にタイムスリップして、後に核実験の影響でゴジラと化すゴジラザウルスの代わりに未来の可愛いペット用動物:ドラットちゃんを3匹ラゴス島に残し、ゴジラ以上の怪獣キングギドラを生み出して日本を滅ぼそう!ですよ。

 

もっとシンプルで上手くいきそうな方法がわんさかありそうな気もしますが、きっと気のせいでしょう。

 

とにかく、こんな夢のある計画をどや顔で実行してみせたウィルソンの胆力(と狂気)には、頭が下がります。


第3位 シートピア海底王国 司令官アントニオ

登場作品『ゴジラ対メガロ

 

核実験で平和な生活をめちゃくちゃにされたことで怒り心頭に発し、地上人との戦いを決意した海底王国の指導者。両手にドリルがくっついた巨大カブト虫:メガロを送り込み、人類への攻撃を仕掛けます。

 

彼らのシートピア海底王国はビジュアルが強烈です。特に古代ローマの人みたいな服装のアントニオの面前で、白い水着(下着?)にシースルーのワンピース(?)という、夜の街をプンプン臭わせるエッチな格好の(なぜかアジア系の顔立ちの)女性陣が変な踊りを舞っている様はザ・カオス。きっと、水爆で国土を荒らされる前は、毎日ウハウハな楽しい生活を送っていたのでしょう。そりゃあ怒るはずだ!

 

そもそも、彼らは安住の地を水爆で破壊されたわけで、哀れな被害者なわけですよ。(だったら日本じゃなくアメリカとかフランスとかを攻撃しろ!って話ですが)となると、人類は彼らに対して誠意を見せるべきでしょう。

 

それなのに、エッチな格好をしたお姉さん達が変な踊りで崇めていた守護神のメガロはガイガンともども、なぜだか助太刀にやってきゴジラジェットジャガーにボコボコにされてしまって…。あまりに不憫なので3位です。


第2位 大久保博士

登場作品『ゴジラVSスペースゴジラ

 

超能力少女:三枝未希さんのテレパシーを使って、ゴジラを意のままに操ろうとしたマッド・サイエンティスト。昨年、大久保を演じた斎藤洋介さんが鬼籍に入った時、哀悼の意をこめて『VSスペースゴジラ』を見直したんですが、やっぱり彼の怪演があったからこそのスペースゴジラだと再認識しましたね。

 

 

このツイートにも書いたのですが、登場時点で何だか挙動がおかしいんですよ。この腹に一物抱えた感じがまた良い。

 

そして何と言っても、大久保のマッドがマックスに達するのが死に際ですね。
ゴジラ乗っ取り作戦は失敗、スペースゴジラが発する強力な電磁波の影響で大切なコンピュータもボロボロという、二進も三進もいかない状況に追い込まれ、ここぞとばかりに大久保は発狂します。

 

ヘンテコなゴーグルみたいなのをかけて、パソコンにまたがりながら「どうしてなんだあ!」と泣き叫ぶ様は、誰しも心が揺さぶられるでしょう。

 

こういう、死に際にそれまでのキャラ(特に冷笑系な感じのキャラ)が崩壊する映画の場面が個人的には好物でして、他にも『ガメラ3 邪神<イリス>覚醒』の手塚とおるさんが演じた倉田とか、『プロメテウス』のシャーリーズ・セロンが宇宙船の下敷きになるとことか、好きなシーンはたくさんあります。そんな中でも、大久保の壊れっぷりは最高でした。


第1位 SSS9

登場作品『ゴジラVSビオランテ

 

G細胞や抗核バクテリアを狙って、『呪怨』の俊雄君ばりに場所を問わずひょっこり出現するサラジア共和国の工作員。口ひげにオールバックのヘア、サングラスという、いかにもアレな風貌をした男です。『ナイトホークス』の時のスタローンっぽい、といったら伝わりますかね?(この時のスタローンはオールバックじゃないですけどね)

 

だいたいの銃撃シーンにかかわっている、本作のガン・アクション担当みたいな人です。

 

彼がなぜ1位かというと、その昔、まだガキんちょだった頃の私は彼を、ゴジラの化身だと勘違いしていたんですね。

 

意味がわからないと思いますが、『VSビオランテ』の終盤って、ゴジラが抗核バクテリアをくらって活動を停止した後、SSS9と主人公の取っ組み合いになるじゃないですか。で、結局SSS9が人工稲妻装置で雲散霧消した後、ゴジラが復活するわけですけど、ゴジラ→SSS9→ゴジラという流れで、怪獣と人の姿を行き来していると、幼い私は解釈したわけです(当時は何でSSS9が消えたのか、意味がわからなかったですしね)。

 

説明しても意味がわからないと思いますが、そんな思い入れもあり1位となりました。

 

ちなみにSSS9を演じたマンジョット・ベディさんはその後、何だかよくわからないけど凄そうな会社の代表取締役をやっていたり、クリエイティブディレクターとか何だかよくわからないけどいろいろな肩書きがあったり、何だかよくわからないけど凄い人になっています。


以上、ゴジラ映画の記憶に残る悪役ベスト5 ─人間・宇宙人・海底人編─ でした!
次回のテーマは、ゴジラ映画の背びれベスト5の予定です。

 

愛しのトラウマ映画列伝:ヴァーホーヴェンとスピルバーグ

 

トータル・リコール』と『スターシップ・トゥルーパーズ

見渡す限り岩しか見当たらない荒涼とした場所に、宇宙服をまとった2人の男女が立っている。
そこは地球ではない、どこかの星の赤い地表だった。
2人はおもむろに手を握り、見つめ合い、静かに微笑んだ。
そして、また歩を進め出したのもつかの間、男の方が足を踏み外し、崖を転がり落ちていく。
彼は顔面から岩に衝突し、ヘルメットが割れ、外気に晒されてしまった。
気圧の急激な変化により、男の顔はみるみる変形し、いまにも目玉が飛び出しそうになっている。
呻吟する声が、何もない大地に響き渡る…。


何歳の時かは判然としないが、おそらく小学生の頃だったと思う。
ある夜、テレビを点けていたら、このような出だしの映画に遭遇した。
そして、苦悶する男の目玉が飛び出し始めた時点で、私は恐怖のあまり、すかさずテレビを消した。
今のはいったい何だ。自分はいったい、何を見てしまったんだ…。


それからというもの、しばらくの間、この映像を思い出すのも嫌になり、あのときテレビを点けていたことを後悔した。
それからしばらく経ち、おそらく高校生か大学生の頃、ある1本の映画を見た。


トータル・リコール
アーノルド・シュワルツェネッガー主演、ポール・ヴァーホーヴェン監督という、とてつもない個性を持った2人が生み出したアクション超大作である。
そのオープニングに、あの悪夢のような映像が現れた。
この時はじめて、あの悪夢が『トータル・リコール』という映画の一部であることを知った。


無論、映画は最高だった。
火星での目玉飛び出し描写を始めとする、天才アーティスト、ロブ・ボッティンが手がけた特殊メイクによる驚異的なショック映像の数々に、私はもはや拒否反応を示すことなく、むしろその虜になっていった。
それからというもの、ロブが参加した『遊星からの物体X』や『ハウリング』など、造形アーティストが生み出す狂気の映画を次々と漁るようになる。
トータル・リコール』で植え付けられた恐怖の種は、時を経て、奇怪な世界を求める底なしの好奇心となって開花したのだった。


同じような体験──当初は拒絶していた映画から、後になって思いもよらない影響を受けるようになる体験は、他にもある。
たとえば、同じくヴァーホーヴェンがメガホンをとった、昆虫型エイリアンとの死闘を描くSFアクションスターシップ・トゥルーパーズである。

記憶では中学くらいの時にテレビで観たつもりだったが、調べてみると地上波初放送は2004年なので、高校1年生の時だった。


この作品の何が嫌だったかといえば、終盤ザンダーという兵士が敵の司令塔であるブレイン・バグに惨殺される場面だ。
彼は頭に管のようなものをブッ刺され、脳髄を吸引され絶命する。まるでタピオカをストローでチューチューするかのように、自分の脳みそを虫に吸われる。こんな厭な死に方があるだろうか。
しかもヴァーホーヴェンは、脳髄がブレイン・バグの口に向かって半透明の管の中を移動していく様や、吸引されるに従って目玉が脳天側に引っぱられ白目をむくところなど、彼の死に至る過程を必要以上の丁寧さで見せてくる。はっきり言って鬼畜である。
劇中の至るところで人間の身体がすっ飛ぶ残酷描写てんこ盛りの『スターシップ・トゥルーパーズ』だが、中でもザンダーの死に様が嫌すぎて、本作はしばらくの間「見なきゃよかった」枠に収まることとなった。


ただ、『スターシップ・トゥルーパーズ』を当初拒絶した理由はそれだけではない。本作は、主人公たち軍隊の勇ましい姿を映し出し、彼らのような兵士をもっと必要としている、と呼びかけ、「THEY'LL KEEP FIGHTING AND THEY'LL WIN」という力強いメッセージとともに幕を閉じる。
この軍国主義を強く打ち出したような終わり方を、当時私は極めて不快に感じた。
露骨に「戦争しようぜ!」と投げかけるようなフィナーレに、怒りすら覚えたほどだった。


だが、本作はもともと全体主義国家のプロパガンダ映画のパロディを意図して作られている。
つまり、表層的に捉えれば浅はかな戦意高揚映画として見えるが(それでもアクション映画として非常に優れいている、という点は一旦置いておく)、パロディとしての構造を含めて捉え直すと、『スターシップ・トゥルーパーズ』はファシズムへの痛烈な皮肉になっているのである。
ヴァーホーヴェンは、「こんなバカな国家のために戦って死にたいのか? そんな世界に生きたいのか?」と観客に問うたのだ。
その本質に気がつかされたとき、自分の不明を恥じるとともに、視点を変えることで映画の姿がまるで違って見えることを教わり、映画の多面性に触れたような気がして何だか嬉しかった。

 

ジョーズ』と『プライベート・ライアン

人が圧倒的な暴力を前に、心が折れ、我を失い、屈していく。映画を見ていると、こうした場面に遭遇することがままある。
たとえば、『ロボコップ』で主人公マーフィが殉職する(直前の)シーンがそれに当たる。武装したワルどもに囲まれ、絶体絶命の状況に追い込まれてもなお毅然とした態度を貫くマーフィ。そんな彼の右手を、敵のボスであるクラレンスが銃で吹き飛ばしてしまう。手首から先がなくなった右腕を呆然と見つめ、マーフィーは力なくトボトボと歩き出す。それまで彼が放っていた威厳や尊厳といったものが雲散霧消し、抵抗する気力すらなく、ただただ悪党の放つ弾丸を浴びせられ、ぼろ切れのように死んでいく。
この場面は、何度みても戦慄してしまう。それは、マーフィの強い意思が悪意の塊によって砕かれたことが、あまりにも鮮明に描かれているからだ。
映画において、人間が折れる場面というのは、私にとって大きな恐怖と苦痛を伴う瞬間でもある。


こういった描写が怖いとはじめて明確に感じたのは、おそらくジョーズだろう。
物語のクライマックス、漁師のクイントが船に乗り上げてきた巨大ザメに足から飲み込まれていくあの有名な場面。
生きたままサメに喰われるという残酷さが恐ろしいのは言わずもがなだが、それ以上にこの場面は、主人公のブロディやフーパー以上に力強くパワーに溢れたクイントという男の生命が、いとも簡単に終わってしまったその唐突な死があまりにも怖い。
サメにとって最も脅威であったはずの人間が、その巨大な暴力に破れ、身体を噛み砕かれる。
あれほど冷静に戦っていたクイントは今や完全に取り乱し、できることと言えばただジタバタして断末魔の叫びをあげることくらい。
結局、彼はなす術もなく、自身の血で赤く染まった海へと引きずり込まれてしまった。
これが、私にとってはじめて体験した、スティーブン・スピルバーグ映画というトラウマである。


彼の映画では、他にも『宇宙戦争』や『ジュラシック・パーク』など、何度か恐ろしい体験をしている。
その中でも、『ジョーズ』と並んで強烈なショックを受けたのが、プライベート・ライアンだった。

第二次世界大戦西部戦線における阿鼻叫喚の戦場を克明に再現し、戦争映画の歴史を変え、分水嶺となった傑作だ。
冒頭のノルマンディ上陸作戦の残虐描写があまりにも有名で、言うまでもなくそのシークエンスにはえも言われぬ衝撃を受けた。


ただ、この映画が私にとってのトラウマになった要因は、終盤の市街地決戦での一幕にある。
主要登場人物のひとりであるメリッシュが建物内でドイツ兵と格闘した末、胸にナイフを押し込まれ命を落とす場面。
ゆっくり、ゆっくりとナイフがメリッシュの胸部に入っていき、やがて急所に達するまでの数秒間は、消しゴムでこすって字が薄くなっていくかのように、人命が少しずつ静かに削られていく様があまりにも生々しく、非常にショッキングだった。
それだけでなく、この場面にはもうひとつのトラウマ要因がある。
主人公たちの部隊で最も若く、闘争心に欠けた男アパム。彼はメリッシュが窮地に陥っていることを悟りながら、そして十分な武器を手にしているにもかかわらず、戦闘に参加することを逡巡していた。
彼がめそめそせず、とっととメリッシュの元へ駆けつけドイツ兵を撃ち殺していれば、彼は助かっただろう。しかし、アパムにはそれができなかった。彼はただ、怯えていただけで、メイリッシュを見殺しにしてしまったばかりか、仲間の命を奪ったドイツ兵が現れると降伏のポーズを示し、そのまま行かせてしまう。


客観的に見れば、彼は臆病者、卑怯者といった誹りを免れられないであろう。
しかし、私にはどうしてもアパムを責めることはできない。もし自分が彼と同じ立場にあったなら、きっと同じように物陰に隠れることしかできなかっただろうと思うから。
恐怖のあまりすくみ上り、失禁すらしてしまうかもしれない。
あれほどの極限状態に置かれたとき、自分の勇気や意思など、いとも簡単に挫けてしまう。
そう思うと、この場面は映画を見てから時間が経てば経つほど、より恐ろしくなっていった。
戦争という冷徹な暴力を前に、何もできず仲間を見殺してにしてしまうという体験を、アパムという人物を通して私は経験してしまったのだと思う。
その恐怖は、映画を見てから20年ほど経った今もなお、心の深いところに巣食っている。

BENNETT ベネット(原作『コマンドー』)

序章:船出


とある港。そこに停泊していている一隻の漁船に向かって歩いている男がいた。
名をベネットという。
彼は船に乗り込み、水平線を眺めながら、昔を思い出していた。血なまぐさいあの日々を。
彼はジョン・メイトリクス大佐率いるコマンドー部隊の一員だった。
そこでは戦いと訓練に明け暮れ、暴力と死にまみれた日々を送っていた。
翻って、今の俺はどうだろう。ベネットは考えた。


メイトリクスに部隊を追放されてからというものの、俺はすっかり腐ってしまった。漁師をやって糊口を凌ぐ毎日は、あの日々に比べてなんて乾いているのだろう。
ベネットは確信していた。殺し合いのない世界など、自分にとって虚構に過ぎない。メイトリクスと過ごした戦場こそ、俺のいるべき場所なのだと。


こんなクソみたいな日々に、決着をつけねばならない。
そう、いまこの時をもって、俺は戦場に戻るのだ。メイトリクスのもとへと。
ベネットは、船を海に向かって発進させた。その姿を港から見守る一人の黒人がいた。その男はおもむろに何かの装置を取り出すと、ゆっくりとスイッチを押した。
ベネットの船は破裂し、たちまち海の藻くずと化した。

 

BENNETT ベネット


第1章:トリック

その数週間前、ベネットのもとへある男達がやってきた。彼らの雇い主を聞いてベネットは驚いた。
アリアス将軍。南米にあるバル・ベルデ共和国をかつて支配していた独裁者だ。メイトリクスによってアリアスの政権は転覆し、今はベラスケス大統領が君臨している。
アリアスの手下は、高級車を難なく買えるくらいの現金を差し出し、ある計画について説明し出した。アリアスは、メイトリクスを使ってベラスケスを殺し、再び支配者の座に返り咲こうとしていた。その計画には、ベネットの協力が不可欠だったのである。
やつの計画の第一段階は、メイトリクスの居場所を突き止めることだ。というのも、メイトリクスの部隊は解散した後、それぞれ新しい身分と職業を与えられ、それまでとは真逆の人生を生きていた。彼らを八つ裂きにしたいほど恨んでいるかつての敵たちから、報復を受けないための手段だった。


ベネットは何人かの情報は握っていたけれど、肝心のメイトリクスの住処などつゆも知らない。
そこで、アリアスとベネットは、メイトリクスを最強の軍人へと育てあげたカービー将軍に、目的の場所へ案内してもらうことにした。かつてのコマンドー部隊の面々を殺害し、メイトリクスの身にも危険が迫っていると悟らせることによって…。


グリーンベレーのクックが、最初に2人を葬った。ひとりはゴミ収集車でおびき寄せて撃ち殺し、もうひとりはキャディラックで轢き殺した。元特殊部隊の人間というのが疑わしいほど、あっけない死に様であった。
さて、メイトリクスのもとへたどり着くには、もうひとり死ななければならない人間がいる。
ベネットだ。


もちろん、ベネットはこの計画のために命を差し出すつもりは毛頭ないし、アリアスとしてもメイトリクスへの怨念をたぎらせる貴重な殺人マシンを失うわけにはいかなかった。
だから、彼らは”トリック”を使うことにした。
ベネットの乗った漁船が爆破されたという知らせが軍にも届き、いよいよカービー将軍が動き出した。かつての特殊部隊にいた男達が、次々と殺されている。彼らの情報が、何者かによって漏れ出ている。次に狙われるのは…メイトリクスだ。
カービーの乗ったヘリは、アリアスの思惑通り、山あいにある一軒の家へと向かった。そこでは、かつて戦場で鬼のような戦いぶりを見せていた軍人が、一人娘と穏やかな生活を送っていた。


ついにアリアスの毒牙は、メイトリクスを捕捉したのである。
カービーがメイトリクスのもとを立ち去るタイミングを見計らって、アリアスの部隊が奇襲をかけた。そして娘を誘拐し、メイトリクスをおびき出すことに成功する。
カーチェイスの末、メイトリクスの車は転倒し、脱出してきた彼を数人がかりで殴り倒した。
地べたに仰向けになったメイトリクスは、彼をのぞきこむ顔を見て仰天した。
死んだはずのベネットが、不適な笑みを浮かべて立っていたからだ。
「ベネット…お前は…」
「死んだと?」
狐につままれたようなメイトリクスの表情をながめながら、ベネットは一晩寝ずに考えて思いついた、取って置きのフレーズを放った。
「残念だったな、トリックだよ」
ベネットの銃から放たれた矢が、メイトリクスの意識を即座に奪った。


2人はコマンドー部隊の上司と部下だったけれど、トレーニング中はその関係を超え、ただのホモ・サピエンス同士として激しくぶつかり合った。それは、男と男のピュアなつき合いだった。
汗にまみれたあの日々を、バックミラーに映るメイトリクスの寝顔をながめながらベネットは思い返していた。
あれほど血の滾るような日々は、他になかった。
だが、いつの間にかメイトリクスは俺を憎むようになった。
俺が殺し過ぎたからだ。
俺にしてみれば、やつの教えを忠実に守り、ひたすら実践しただけだったのだが…。
まあ、しかし、たしかに殺しは楽しかった。
メイトリクスとの訓練と同等か、あるいはそれ以上に俺を魅了した。
だから、メイトリクスは俺を部隊から追放した。
それ以来、俺はまるで抜け殻のような日々を送ることになったんだ。


第2章:I'll be back, Bennett

どこか、見知らぬ倉庫のような場所でメイトリクスは目を覚ました。
辺りを見渡すと、ベネットを含んだ数人の男達が、彼を縛り付けた台を囲んでいる。
「麻酔弾だよ」
ベネットがわかりやすく説明してくれた。
「私を憶えているか、大佐」
続いて口を開いた男をメイトリクスはにらみつけた。アリアス将軍だった。
「忘れるものか、このゲス野郎」
アリアスはメイトリクスの悪態を気にすることなく、自身の壮大な計画について語り始めた。
メイトリクスをバル・ベルデへ単身乗り込ませ、ベラスケス大統領を暗殺させる。もし、勝手な行動を取ったならば、娘をバラバラにして送り届ける。
シンプル。実にシンプルでわかりやすい計画だった。


作戦は次の第2段階に移った。
ベネットの仕事は、メイトリクスとその見張り役であるサリー、エンリケスの3人を車で空港に送ることだ。
別れ際、ベネットはメイトリクスに忠告した。
「サリーとエンリケス、どちらかと連絡が取れなくなったら、娘はあの世行きだ」
メイトリクスは、戦場でことあるごとに使っていた、お馴染みの捨て台詞を返した。
「I'll be back, Bennett」
うんざりするほど聞かされたこのフレーズも、今や心地よく感じられる。ベネットはいい気分だった。
「待っているよ、ジョン」


アリアスのもとへ戻ったベネットは、サリーからメイトリクスとエンリケスがバル・ベルデ行きの飛行機に搭乗した知らせを受けると、ジェニーを連れてアリアス軍団のアジトがある離島に向かった。
そこで、エンリケスからバル・ベルデに到着した報を待つことになる。
しかし、ベネットはそんな報が来ないであろうことは、ずっと前から知っていた。
メイトリクスは必ず命令に背き、娘を取り戻しにくる。
それも、バル・ベルデに到着する前にだ。大統領を暗殺したとこで、自分も娘も命がないことをやつはよくわかっている。
だから、飛行機が到着するまでの11時間の間に、やつは必ずこの島に現れる。
その時は、もはやアリアスの計画などどうでも良い。娘をエサに、メイトリクスをおびき出し、俺様ひとりでやつをなぶり殺す…。
それこそが、ベネットの本当の狙いだった。
ここから、遂にミッション<BENNETT ベネット>が始動したのである…。


第3章:カカシですな

といっても、メイトリクスが島に来るまでの間、特にやることはない。
そのため、ベネットはアリアスの護衛をするふりをしつつ、暇なのでナイフを矯めつ眇めつしながら、「ジョンのどこを切り刻んでやろうか」などと妄想を膨らませていた。
アリアスは常に能面のような表情で全く感情が読み取れないが、ナイフをながめてニヤニヤするこの男のことを内心気味悪がっていた。
そんな感じで時間を持て余しつつも、やっぱりやることがなくなってきたので、ベネットは「あなたの兵隊はまるでカカシですな。俺やメイトリクスなら、瞬きする間に殺せますよ。アハハ」などとアリアスをおちょくって遊んだりもした。
また、メイトリクスとの一騎打ちに備えて、美味しい料理をたらふく食べたりもした。


さて、そうこうしているうちに、アリアスの電話が鳴った。
バル・ベルデの空港で、メイトリクスの到着を待っていた部下からの報告だった。
「やつは乗っていません!」
怒り心頭に発したアリアスの手がプルプルと震える。
「娘を殺せ」
ベネットは笑みだけ返し、すぐさまジェニーを監禁している部屋へと向かった。
すると、あたりで爆発音が轟いた。
「やっぱりやって来たか。流石だ、メイトリクス」
嬉しさのあまり、ベネットは思わず独りごちた。
ルンルン気分で監禁部屋に入ると、中はもぬけの殻だった。
まさか…!?
あろうことか、ジェニーはベニヤ板でできた壁をはがして、外へ脱出していた。
「あの小娘がっ!」
メイトリクスよりも先に小娘を見つけなければ。
本来であれば、ジェニーの追跡は手下に任せて、アリアスの護衛に回るべきなのだが、この男の生死など、もはやベネットは歯牙にもかけていなかった。
壁を渾身の体当たりでぶち破ると、ちょうど地下へと続く階段をジェニーが駆け降りていくところが見えた。
辺りでは爆音と銃声がひっきりなしに続いている。
メイトリクスがアリアス軍団を皆殺しにするのも時間の問題だろう。
その前に、小娘をひっ捕えなければ。
ベネットは無我夢中で駆け出した。


第4章:地獄

地上で起きている爆発の衝撃で、張り巡らせれたパイプが軋んでいる。
ベネットは薄暗い地下を進んでいた。まるで小動物を血眼で探しているハイエナのように。
どこに隠れているんだ、小娘。とっとと出てこい。
ジェニーは物陰に息を潜めていたが、父親が近くに来ているのを感じ、あらん限りの声で叫んだ。
「パパー!」
その声は、メイトリクスに届いた。
「ジェニー、どこだ!?」
父親は一目散に、娘の声がこだまする地下へと降りていく。
「ジェニー!」
親子はついに、互いの声がはっきり聞こえる距離まで近づいた。
しかし、ジェニーの声が呼び寄せているのはメイトリクスだけではなかった。
物陰から飛び出したジェニーを、ベネットの手がつかんだ。
「キャー!」
「わるいな、パパでなくて」
これで俺の勝ちだ…。
ベネットは切り札を取り戻した。
そして遂に、メイトリクスが目の前に現れた。
ベネットはすかさず、鉛玉を彼の腕にぶち込んだ。
たまらずメイトリクスは、物陰に身を隠す。
「ジョン、顔を見せろよ。昔のよしみだ、一発で仕留めてやるぜ」
無論、ベネットにそのつもりはない。四肢を撃ちぬいて動きを封じてから、ゆっくりナイフでいたぶってやるつもりだった。娘には、その光景を特等席でおがませてやる。
ところが、メイトリクスの挑発がベネットの何かを揺り動かしつつあった。
「来いよベネット。銃なんか捨てて、かかってこい」
そうだ、俺が望んでいたのは一方的な拷問なんかじゃない。体と体のぶつかり合いだ。
ベネットは覚醒した。男ベネットは、正々堂々勝負する覚悟を決めたのだ。
「ガキにはもう用はねえ! ハジキも必要ねえ! てめえなんか怖かねえ!! 野郎お、ぶっ殺してやらぁぁぁ!!!」
こうして、史上最大の決闘が始まった。


組んず解れつする鋼の筋肉に包まれた肉体と、チョッキに身を包んだ狂気の肉体。
片腕を負傷したメイトリクスはやや劣勢で、ベネットの攻撃が彼の命を削っていく。
「いい気分だぜ。昔を思いださあ! これから死ぬ気分はどうだ、大佐!」
ベネットの意識は、完全にコマンドー時代に戻っていた。
彼の人生で最も輝いていたあの時代に。
メイトリクスと互いの体を激しく交じらせていた、あの素晴らしいときに。
ところが、「Bullshit!」と叫び自身を奮い立たせたメイトリクスの鉄拳を喰らい、ベネットは電熱線に背中から突っ込んだ。
「ギイイヤアアア!!!」
とてつもない電流がベネットの体を駆け巡った。万事休すか…。
だが、このときベネットは電流を自らのエネルギーへと変える秘技“ベネット・チャージ”を使い、まさかの復活。
雷のごときパワーで反撃した。
もう十分楽しんだ。そろそろケリをつけるときだ…!
「ハジキはいらねえ!」と勇んでいたベネットはどこへやら、結局銃で仕留めることにした。
「眉間なんか狙ってやるものか! 貴様のタマを撃ちぬいてやる!」
その刹那、メイトリクスは渾身の力で壁に張り巡らされたパイプを引き抜くと、そのままベネットの胴体めがけて投げ飛ばした。
ベネットは何が起きたのかわからなかった。
気がつくと、胸部を図太い棒が貫いていた。
そのパイプはベネットの背後にあったボイラーをも貫通し、パイプの先から蒸気が吹き出している。まるで、彼の精魂が流れ出ていくかのように。


蒸気の中にうっすらと映るメイトリクスの顔が、死にゆくベネットを見つめいている。
ほとんど感覚がなくなり何を言っているのかよくわからなかったが、死に際、ベネットはメイトリクスがこう言ったように感じた。
「地獄で待ってろ、ベネット」
そうだ、地獄でまた会おう、ジョン。その時は今度こそ、お前を片付けまさあ。


THE END